補足17


WAと派生元を対比させつつ、懲りずわきまえず厚かましく当て推量していきます。ほぼいわれのない言いがかりなので、話半分を話半分として受け取れる方だけお付き合い下さい。美咲編道中、はるかに「会えない」ことで日に日に神経をすり減らしていくというのに、内心どうでもいい存在の美咲ばかり近くにいても、冬弥の飢えた心は少しも満たされません。本来、作品最終日をもって所定のはるか空白記憶は消失し冬弥の苦悩も無に帰すはずですが、おそらく彰EDでは執着が強すぎるあまりしばらく追求状態は解除されず、期間延長します。そんな中でのED後、美咲が空気を読まずに紅潮で三回目をねだって押しかけてきたら、冬弥一気に豹変して、急転直下でアウトだと思います。仏の顔(あの顔)も三度まで。派生元風にいうなら、いい加減にしてくれ、僕が欲しいのは君じゃない!的な逆ギレです。散々処理に使ってその言い草。それを冬弥言語に訳し直せばいいだけです。多分それでどっち側も内情合っていると思います。


派生元で後輩さんは、学園祭、クリスマス、バレンタインと順調にイベント通過(真偽不明)して恋を進展させているつもりなのに、先輩がその内部で限界まで闇をためていってはち切れる寸前なのを知らないから。気付けって方が無理ですよ、見た目いたって簡単な顔で平静に笑ってんだもん。だからこそ裏返ったらその瞬間で終了っていうか。(社会的)死亡フラグ積み立て条件が厳しすぎます。後輩本人、将来性ある結末に向けてはりきって条件を積み立てているのに、それが逆に逆効果で、しかも最終段階になるまで悪化状況が判らないなんて、とんだ鬼ゲーです。


あの人の最終的な暴走を決定づけた転換点というのはあまりはっきりと描写されていないので憶測でしかありませんが、後輩が家に押しかけた?行動にやたら憤慨していることから、もうすっかり恋人気取りの彼女に熱烈アプローチされる現場を妹に見られて泡食ったのかもしれません。妹に。これは相当痛い。対する妹、「お兄ちゃん飽きる顔だから恋人できたら特別に見えていいね」なんて冗談、もちろん言ってくれやしません。無言で失望と嫌悪と非難の視線をちらっとくれてからそのまま徹底無視、籠城部屋?に直行。バタン、ガチャッ。「ち、違うんだ…。これは彼女に押しきられて仕方なく…。浮気するつもりなんて全然ないんだ、僕には一生妹だけだから…!」って、そこじゃない。あの兄さん割と天然なのか、論点のずれた変な所でしきりに言い訳するおもろい一面があるから適当に台詞あててみた。でもって、やおら振り返って「ああもう!全部君のせいだ!」ってなって、その場で状況も判らないまま面食らっている後輩をぶっ壊した、と想像。色々タイミングが悪すぎたんでしょうね。にしても人のせいにすんなよ。


周囲にお披露目はしていないらしいし、扱いもやたら粗雑だけど、包帯さんは正真正銘、あの人の「彼女」です。彼らは、お互い共通認識の上でお付き合いしている「恋人同士」なんです。いくら外野がそのゆがんだ関係図を不快に思ったって、はっきり言って「これは僕たちのプライベート問題で、君には関係ないだろう?」ですよ。確かにそうだけど。お小遣いはずんでもらうのを期待して渋々調査に赴いただけだけど。「それとも何?君、彼女のこと好きなのかい?」なんて訊き返された日には返答に困ります。原典の主人公が包帯さんのことを本当はどう思っているのかは全然判らないので置いておくとして、あの人はもう、勝手にそうと決めつけて「へえ、そう、ふーん」みたいに、したり顔でニヤニヤすると思います。想像するだけでくっそ腹立つ。そしてさらに想像を進めますと「よし、じゃあそんな君にはもっと楽しんでもらわないとね」とか言ってノリノリで包帯をけしかけてきそうです。ありがた迷惑のサービス精神。悪気はないんです、たち悪い押しつけだけど純粋な善意です。冬弥は彰にそんなことしちゃだめだよ。のんきに釘刺してないでさっさと表に現れろはるか。


冬弥と美咲はけっして周りから快く認めてもらえるような正当な立場ではなく、言うなれば不実な「愛人関係」ですが、それを彼らはお互い共通認識の上で結んでいる訳です。彼ら同士の中ではそれで完結、決着しており、他人が入りこむ余地はありません。プライベート問題です。そんな、外野口出し無用意識を冬弥バージョンに書き起こしてみましょう。「彰は美咲さんの何なの?何でもないだろ?だったら彰には関係ないじゃない。好きならさっさといえば良かったのに。でも結局ずっと言わなかったんだし、それなのにとやかく言われたんじゃ、俺もたまんないよ」なんて。いや、実際には言いませんよそんな暴言。でも言いそう。スイッチ入ったらすごく言いそう。オブラート完全撤廃の冬弥の本音まき散らしというのも見てみたいものです。身の程をわきまえない勝手な論理ですけど、少なくとも、彰の部外者立場からの横やり非難に対してはめちゃくちゃ正論です。それ以前の問題、由綺という正式な恋人がいる身でけしからんって?いえ、彼女は話の本筋に関わりのないただの「異物」なので視野から除外除外。由綺が恋人っていう設定自体、初めから「エラー」ですから、そこはまったく論点に値しません。


さて、本心素通りの派生元の答弁としては「これは彼女が望んだことで、僕としては全然乗り気でなかったんだけど、どうしてもって懇願されたから仕方なく相手してあげたんだ」というのが偽らぬ言い分だと思います。悪態とかじゃなく、素直な本音を事実に従って普通に言ってる。ええい、その薄汚い口を開くな。それをそのまま俺語訳すれば、美咲編冬弥の真の心境が見えてくると思います。冬弥が派生元の基本を色濃く引き継いでいる以上、美咲に対しては当初、心を惹きつけられるような愛情はさっぱり持っていないんです。しつこいつきまといをかわしきれなくなり、包囲網に屈して「仕方なく」です。「別に俺、美咲さんのことどうとも思ってないけど、向こうはずっと追い回してくるし、そのつもりならそれはそれで、俺もそれでいいんじゃないかな…」と、冬弥も水面下で精神状態がかなり摩耗しているだけに、弱った心を明け渡してしまいます。ストーカー被害で多かれ少なかれ陥りがちな終着点です。


派生元サイド。妹と断絶した日々を送る一方、成りゆきに流されて後輩と体で繋がるそんな中「この際いっそ後輩さんでも別にいいんじゃないかな…」なんて思考があの人の頭をよぎり始めます。後輩さんは基本面倒見が良く母性的な面もあり、複雑な環境による根深い傷をもひょっとしたら受け止めて慰めてくれるはずで(甘えないで下さいとしばかれる可能性もないではないが)、おそらくはそのルートこそが彼にとって王道の正解なんです。でもですよ、取り返しのつかない致命的な間違いを犯してしまった「後」で、異論なしで絶対的大正義なとっておきの選択肢を出されても、もはや受け入れることはできない訳です。ああそうとも、君がもっと早く打ち明けてくれれば僕は妹にひどいことをしなくて済んだのに。私のせいだって言うんですか!?お似合いカップルの、犬も食わないそんなありふれた痴話喧嘩。夫婦漫才トークはほどほどにするとして、今まで逆境に耐える中すがってきたシスコンという彼渾身のアイデンティティを今さら捨てる訳にはいかないのです。自分が心に決めた相手は妹だけなのに、他に目移りしては自分のモットーに反します。前提からして色々おかしいんですが、彼の中では妹愛の気持ちは強固に定まっていてそれが真理なのです。その誓いをおびやかす要素は排除しなくてはなりません。後輩ルートは全面的に正当な選択肢で、根底から傾かずにはおれないものだからこそ、徹底的に潰しておく必要がありました。それだけ、迷える彼の中で後輩が大きな割合を占めつつあったということだと思います。そして彼は「間違い」を「間違いでなかった」と自分に言い含めるために「正解」をぶっ壊して安定を図ります。何かもう間違いに間違いを重ねまくって完全に収拾がつかなくなっています。初動からして間違っているから、何をやってもまともな方向に軌道修正することはできません。


派生元が彼一番の想いを遂げることは許されないことで、罪悪感を強いられる道行きです。一方、冬弥がはるかに生涯を誓うことには、何の問題もなく、それをわざわざ諦める必要はありません。冬弥は派生元以上にまっすぐ一途に本命を想える立場にあります。つまり、冬弥には妥協案は必要ありません。それはそのまま美咲の待遇にも直結します。本命を堂々と想うことができないあの人が、包帯に内心引っぱられて宗旨替えするのもありなのと違って、冬弥が美咲に乗りかえる意義はまったくない訳です。冬弥からは派生元を縛りつけた制約がなくなっているので、彼はどこまでもひたすらにはるかを想います。冬弥は第二以下の候補を持ちません。そういう意味では、美咲はまったくの「対象外」のまま、密接な対象として置かれることになります。


そもそも派生元時点で、枷があってもあの通り、全然構わず妹愛に没頭している訳で、その枷のない冬弥には、はるかを愛することに何の忌憚もありはしません。遮るものも二人の間には皆無です。ただ冬弥新規の問題として、本来はるかが定置されているはずの重要欄が空白になっており、手を伸ばしても何にもかすらず空を切る状態にあります。障壁以前に、肝心のはるかが「そこにない」んです。はるかを心から欲していても、冬弥にはそれが何なのか特定できないので、それを得るための行動を起こすことすら初めから叶わない望みです。その虚をついて、美咲の存在がおもむろに浮上してきます。得たいものがけっして得られない無理筋なものならば、今そこにある得やすい別の何かで気を鎮めるしかないのです。


世間的にアウトゆえに泣く泣く断念せざるを得ない願望とはいえ、それでも派生元の第一命題は、本命への気持ちを貫くことです。事情に問題さえなければ、胸を張って自分の信念を通しきれます。繰り越して冬弥の場合、かかる制約が解消されたからか、はたまたその制約をはねのける勢いでか、ことはるか最高位に関しては絶対引きません。彼は、はるかが好きすぎて他には何も望まないって人です。彼らにとって、たった一人が「特別」で、他は「その他大勢」です。それはもうそういう「縛り」だからしょうがないんです。一途すぎて他は全然見えていません。ていうか見向きもしません。本命への想いをまっとうするためなら、それ以外の誰を傷つけても構わない、誰を敵に回しても引かない、だってそれは愛しの彼女じゃないんだから、くらいの強硬な気持ちでいます。もっとも、両方すごく場を気にする性格なので、普段は周囲との和を重んじて穏やかにしていますが、本命との繋がりが途切れて切羽詰まるともう、自分を維持できずなりふり構わなくなります。


ただし彼らはどちらも、それぞれの作中で、その一途さとはまるっきり正反対の行動に走ります。冬弥の場合、彼を内側から見やれば、他に対してはとことん非道だけどはるかにだけは誠実という裏事情があるにはありますが、実際の行動では、唯一はるか要素だけが一線を越えるトリガーであるものの、結局はそれをきっかけに別の女に節操なく飛びつくことになる訳です。そんな本気の欠片もない要因で手を出される相手はもちろん、はるか本人に対し貞節を通しているのでもないし、もう何もかもが間違っています。でも冬弥本人は、自分のしでかしていることが自分で自分を責めるくくりよりもずっと罪深い所業であるとは知るよしもありません。図らずも、はるかを感じ取れれば誰とでもやれる、みたいなプログラムが作動しています。とはいえ、本当であれば本当のはるかでないとだめな人なんです冬弥は。やれればどんな女でもいいというのなら、原型時点で、わざわざ人の道を踏み外して妹犯すなんてしていませんからね。


そんな茨の道に進んだあの人ではありますが、極限まで思いつめてご執心の妹に手を出したその身で、夜な夜な女をはべらせて乱痴気パーティーを開催しています。何なんだ。妹命ならそこは脇目もふらず徹底しろよ。まあ、妹を手にしたことで結果的に妹を失う事態になったので、ストッパーがはじけ飛んで、この期に及んでなおも品行方正を保ち続けることに意味を感じなくなったのかもしれません。元から妹以外にはとことん冷徹で容赦ない人なのか、それとも唯一大事な肝心の妹を自分で壊したせいで、自動的にすべてへの対応が繰り下がり、何もかもどうにでもなれ発想に達してあの有様なのかは判りませんが。そうだ、それなら全部壊してしまえばいいのか!と明後日の方向にひらめいて、妹を壊した事実の重大さを引き下げようとして、あの通りやらかしているのではないかと思います。


本命だけに偏執的に真剣で、自分に対しては少しも誠意を割いてくれない最低男に甲斐甲斐しく連れ添って、美咲も包帯もそれでいいのかって思うんですが、何でだか現実、彼女たちはそれで満足なんですね。二人とも、相手がだめ男だと判っていながらそれでもハマっちゃう因果な性格なのです。美咲は冬弥の異常を知っていて、なおかつ彼がはるかだけを求めている真実も知っています。つまり、それどころでない彼の心に自分が入りこむ余地はなく、けっして愛されはしないとしっかり判っていて、それでも彼の相手を担うことを望んでいます。美咲はほとほと肉欲な人なので、体でだけでも役割を与えてもらえるならそれだけでもうしたたってたまらず、本人たっての希望ではけ口の立場に殉じます。そして即落ちですっかり冬弥のがないとだめな体になってしまって、二度目を求めて再び冬弥のもとへと押しかけてきます。単に美咲がそういう人だって事実があるだけで、性的に欲浸りなのがクるとか引くとかの話をしているのではありませんので、そこはあしからず。


一方、正常状態での包帯もとい後輩が、はたしてどこまであの人の事情を把握していたかは結局判らないままなんですけど、そこは特に彼女の方向性に影響する要素ではなく、どのみちやっぱり、彼女もまた一物に執着して彼なしではいられない体になっていたと思われます。実際あの人の口からも、そういう傾向の彼女には困ったみたいな自慢証言が出てくるし。つまり、後輩にしろ美咲にしろ「彼女たち自体」が体目的をまず第一にしており、それこそで繋がるあり方を重視しています。心置き去りで結ぶ肉体関係というのを、彼女たち二人とも納得の上かつ熱心に希望しており、男側が一方的に強制しているのではないのです。そういうタイプの女性がいたってそれは個人の個性だからそれでいいと思います。


彼女たちの淫乱さは元々の個体所有特性で、それが大いに男への粘着に繋がっているとして、だめ男限定で尽くしたがる要因は他にもありそうです。だめ男なのに体で離れられなくて仕方ないというだけでなく、むしろだめ男だからこそハマっちゃうってんで、彼女たちもまただめ女の典型と言えます。というのも、相手がだめであればあるほど、尽くす手応えを強く感じられるのです。私だけが彼のだめさに向き合えるという特別感、私がいないと彼はもっとだめになるという使命感、それらにより相手がだめなことが逆に、特別価値のある要素として繰り上がってしまいます。そうやってだめさ歓迎で容認することで、相手のだめさがより加速するんですけど、彼女たちとしてはそれで願ったり叶ったりなんですね。向こうがだめになるほど自分の役割が高まるというんで。もっともそれは自己満足に過ぎず、状況はどんどんだめになっていきます。だめ男とだめ女の相乗効果で、もろともに、一層だめの最果てへと向かう道筋が確定しています。


色情にどっぷり染まっている包帯とはいえ、あの人のイタタっぷりに直面した日には冷めて愛想が尽きそうなものですが、既に正気を失っているだけに、彼の人間性を見定めるだけの思考力は残されていません。それでも、通常の意思表示すらまともになすこともできない中、おそらくは自らの決意で、それでも彼を抱きしめることを選びます。うつろな目から見ても、あれだけだめ男が確定していて無情な扱いしかしてくれない彼なのに、それでもです。包帯も物好きなもので、彼がああいうやつだと肌で実感した上で、まさに「その彼を」受け入れたのだと思います。そこには世間向けの虚栄心によるステータス目的の算段とか駆け引きとかが一切ないだけに、計測不能に深い愛情がこもっているのではないでしょうか。その愛は、理屈から解放された境地にあるのです。


一方その点、美咲は正気でもって、正当でない仮の立場にいつまでも後ろめたくとどまり続け、けっして報われることのない自分を自覚しなければならない訳です。包帯のように訳も判らなくなっていた方がよほどましです。一応冬弥は彰パンチで改心するので(ただし美咲ED側のみ)、美咲への扱いには劇的な改善が見込まれますが、あいにく美咲視点からではこの先冬弥に情けが湧いて見返りを向けてくれる保証はなく、まったくの先行き不明です。常識的に考えた上で、さらに美咲式に思考をこねくり回し獲得条件の比較吟味を徹底した上でなお、何のメリットもなくむしろ苦行でしかないのに冬弥に同行することを選んだというのは、これもまた理屈でない愛の深さと言えるでしょう。


目を背けたくなる最っ低な仮想暴言・仮想醜態の数々に、「そんなこと、僕は言わないよ」とか「俺、そんなこと言ってない…」とか撤回要求のブーイングがきそうですが、ええそうですよ、そんなこと言っていないのは百も承知です。ただ言いそうなこととして挙げているだけです。でもすごく言いそうでしょう?言っていてもおかしくないです。二人とも基本的な言動が元々あれだからね、いくらでも想像の範囲内ですよ。自分の胸に手を当ててよく思い返してごらんなさい。でもまあ、勝手に台詞こしらえて当然のようにあてがったのは、正直ごめん、やり過ぎすまんかったです。