さいごに


さて、妄想にも近い私のWA考察はいかがでしたか?あくまで仮説ですから、実際にはただの考えすぎで思い違いかもしれませんけどね。「自分の知ってるWAじゃない!」と憤る方もいらっしゃるかもしれません。とはいえ、かなり昔のゲームですし、従来の見方については考察しつくされていると思うので、別の観点から語ってみました。なので表向きのシナリオについての考察は割愛させていただきます。物語の構造上、特定のキャラに偏った考察になってしまい、すみません。他、謎解きの取りこぼしもいくらかあるかもしれません。


冬弥を浮気に走らせる根本的な原因と最終的な決定打がはるかの面影にある、というだけで、冬弥にはそれ以外の各キャラに対して何の愛情もない、とは思っていないので、そこは各キャラファンの方々、どうぞ怒らないで下さい。各キャラと冬弥の交流は確かなものであり、その時の感情も本物だと思っています。


記憶喪失により認識能力に問題がある上、それを自覚しておらず、元から天然で思いこみが激しく、さらには独白の中でも嘘をついたり隠しごとをしたり話をそらしたりするので、冬弥の発言はまったくもって当てになりません。お前もう黙ってろと言いたくなるくらい。また事情を知っているはるか・美咲・弥生の三人は、冬弥の記憶喪失を踏まえ、それに配慮した発言をするので、秘密は簡単には漏洩しません。特にはるかと弥生は、ただでさえ無口な上、口を開けば意味不明な言動をするので、受け流すことが多いのではないでしょうか。第一、この二人が前面に出てきたら誰もソフト買わないので、あくまで影の存在として置かれているようです。WAは実は由綺と理奈のWヒロインではなく、本当ははるかと弥生のW真ヒロインだったと言われても絶句するしかありません。どこ需要なんだか。事情を把握した後に読み返すと、真意や真相が何となく判るようにはなっていますが、基本、種明かしを放棄したような作りになっています。作中、冬弥は確かに「失くした何か」といった表現を連発しており、記憶喪失ものであることが当初から明確に示されていますが、普段のあやふやで適当な口調のせいで「失くした何か」は、よくあるふわっとしたただの感傷的表現として受け取られがち。WAのテキストは、ややもすると未熟な文章と酷評されがちですが、曖昧で不完全な独特の文体がうまく作用して、意図的に空けられたシナリオの穴や空白、時系列のぼかしを目立たなくさせています。これが逆に理路整然とした文体だったら、矛盾が悪目立ちして、表向きのシナリオさえ成り立たなくなっていたでしょう。物語の中でやたら存在する違和感やつっこみどころ、不自然な言及、過去の不透明さ、結論を出さずに放置している落ち度は、大抵が謎解きのトリガーになっており、どうも、わざと穴だらけのテキストになっているようです。中には本当に誤字脱字している箇所もあるので、どっちなのか判らない場合もありますが。テキストによるちゃんとした種明かしが本編内で行われていないのは、自力で真相を掴むことで、あらゆる謎が氷解し、作中のエピソードや作中にはない過去の断片のフラッシュバックを起こすことを想定しているためと思われます。お風呂イベントでの冬弥の記憶逆流を再現し、読み手がその奔流を体感できるという仕組みでしょう。WAは文章化されていない部分が重要で、大事なことほど言葉にならないという美学が徹底されています。不完全な状態こそが完全体で、その理念は作品全体の構成や、冬弥とはるかの人物像にも大きく反映されています。多分、本来は原作テキストに追加の余地も削減するべき無駄もないくらい、未完成な状態でもって完璧に完成している作品なのかもしれません。言語化しないこと、秘密にすることにこだわりすぎて、狙いはちょっと失敗している感じですが。


WAをプレイした人々の多くに嫌われていたり軽蔑されていたり、軒並み低評価の冬弥ですが、私は大好きです。ていうか全キャラ大好きです。冬弥の実情知ったらもう、はるかと同じ目線でしか見れません。EDで「汚れなく奇麗で」と表現されているのも納得の純粋さです。はた迷惑な一途さですけどね。パネルが高レベルになるにつれ、天然といたずらを炸裂させることも増え、無駄に可愛げを振りまいています。馬鹿なの?って思います。主人公が萌えキャラ化してどうする。また、もう一人の主人公とも言えるはるかですけど、何となく直感で、冬弥を監視しているような、作品全体を背後で操っているかのような、彼女が諸事情の黒幕であるかのような印象を受ける人も多いと思いますが、多少立ち位置は違えど大当たりだったという訳です。はるかの実情は、あまりに達観していて無償の愛が過ぎるのですが、それを一切口にしないことで、より一層、彼女というキャラクターの清らかさが際立っています(まあ、はるか自身は要所でちゃんと喋ってはいるんですけど、冬弥が受け流すから伝わりません)。冬弥がはるかを愛してやまない気持ちが判る気がします。冬弥とはるかの想いの深さを知ってしまうと「ああこいつらもう仕方ないな」と完全に諦めの気持ちになります。一応、切ない純愛悲恋物語なんでしょうけど、肝心の当事者が冬弥とはるかってのが何とも微妙な感じ。お前ら何やってんだ、無駄話してないでちゃんとしろよって思います。


WAは「雪降る冬の物語」であると同時に、一貫して「冬から春に向けての物語」でもあります。冬弥は、はるかを全体のヒロインに置くことで初めて真価を発揮する主人公です。そしてWAという物語もまた、その条件で真価を発揮します。それがあまり知られておらず、長年軽んじられているのはちょっと勿体ないかなと思います。失って話せない主人公と、伏せて黙ってるヒロインって、これやる気あるのか。これだけ設定詰めこまれているのに、表向きただのヘタレ主人公として成り立っている所とか、冬弥ってある意味強いなあって思います。あいつ実は全然大丈夫じゃなかったのに、平気そうにするから、本当に何でもなさげに見えて損してるタイプです。


PS3版は未プレイなので、原作発売から10年近くたって作中での真相解明が追加されたかは判らないのですが(リメイク発売からも、はや10年そこらですね!)、私としては、Hシーンでの描写も謎解きの大きな助けになったので、それのないコンシューマ版はちょっと原作には及ばないのではと思っています。お風呂必須。デザインとシステムが洗練されたのはすごく魅力ですけどね。アニメ版も、視聴環境がなかったので未視聴です。聞く所によると、完全に原作を冒涜するような出来だったらしいので、別に見なくてもいいかなと思っています。どちらにせよ、AQUAPLUS発の楽曲だけは継続して手に入れましたけど。


世に記憶喪失ものは数多くあれど、WAのように正統派の記憶喪失ものでありながら、それを公表していない作品はあまり見ないのではないでしょうか。なにぶん昔のゲームで、もはや動作環境はありませんが、私はこれからもWAの物語を思い出して、雪に埋もれた名作として愛し続けます。

最後までご覧いただき、ありがとうございました!

2021年 5月 背黒柴
(以降、若干の加筆修正)



動作環境を確保したので、検証後、順次修正中。
大幅には変わらないと思いますが。
なお事項や論点の整理はしますが、表記の改めは大変なのでご容赦下さい。(2022年5月~)