余談として、派生あれこれの話。はるかが某キャラクターに名前や雰囲気が似ているため、兄が何となく危ないやつだったんじゃないかと思われることも少なくなさそうですが、頭おかしくて愛が重いのは冬弥であって、特に心を病む要素のない兄はまっとうな人かと思われます。はるか同様、随時息抜きしていたでしょう。はるかは高校2年の夏、優しい兄を失い、壊れた半身が残されたという点で某キャラとほぼ同条件となっています。某キャラと比べ、シナリオ背景に大した物語性がなさそうで、名前負けしているように思われているはるかですが、単に事情を黙っているだけです。なお半年で決着がつかず、3年余りもずるずると問題が長引いているのはWAならではです。兄については、特に痛い問題を起こすこともなくただ単に死んだだけ(というのも不謹慎ですけど)なのは正直期待外れもいいとこですが、奇しくも冬弥の記憶欠落により「表向きは優等生だけど、裏ではどうだか知らないよ」的な描写となっており、冬弥は図らずも疑惑に拍車をかける印象操作をしてしまっています。とんだ風評被害です。でもまあ、弥生の乱れた性生活をのんびり眺めてそうな?微妙な所もありそうなので、まったくの潔白ではないかもしれません。幽霊だからただ見ているのは仕方ないですが、「えっ、そっち?」というか何というか。
冬弥とはるかの共通認識として、生前はスーパースターだったらしい兄ですが、そういう外面は割とどうでもいい情報です。はるかの兄って時点でもうまともとは思えないし、弥生と恋仲と発覚した時点でもうまともであるはずがない。危なくはなかったとしても、絶対、浮世離れした変な人だったと思います。弥生が出会ったのは、スター選手としての彼ではなく、おそらくは公園などでくつろぐ素朴な青年の方でしょう。でなきゃそうそうなつかないと思います。はるかに関して言えば、気まぐれに見えて、その大まかな行動はルーティン化されており、彼女なりに規則正しい生活を送っています。兄もそうだったのなら、一度行動パターンがかち合えば、再び会うこと、たびたび会うことはそこまで難しくありません。弥生も見たまま杓子定規で型にはまった人なので自分の習慣を貫きます。二人とも自分の行動パターンを曲げないので、結果、接触回数が重なり、そのうちに気が合い、親しくなったのではないかと察します。当時の弥生が暇していたかは判りませんが、少なくとも兄の方は忙しくしていたはずなのに、割と暇そうに散歩してそうで、その生態はよく判らないです。オン/オフが顕著ってことでしょうか。兄にしろはるかにしろ、普段の意味不明さという大きなマイナスがあった上での人格者ですから、長短のバランスは取れています。
なお、兄の外見はろくに映っていませんが、深緑色にした某兄をカワタさん(現)風味にしたのを適当に想像したら、大体それで合ってるんじゃないかと思いますよ。そんな凝ったキャラデしてないと思います。あまり笑う人ではなかったようで、常時嘘っぽい笑顔を浮かべた感じではなさそうですが、猫みたいに目をキュッとする癖はありそうです。つまり同じ顔です。気にせず色違いにしましょう。変に気を入れて考えちゃだめですよ。あの人から毒気を抜いたら何も残らず、ただの万能イケメンで、キャラ的に何の面白味もありません。だから作中でも特に語られることがないのかもしれません。はるか要素が加わってアルファ波発生装置になってそうではありますが。攻撃的なあれこれが全部ヒーリング方面に置き換わっているかと。また、本気か似非か色に狂った性質が反転して、性的にうぶな人だったかもしれません。うぶなのも本気か猫か判りませんが、有能で純情とか、ある意味、女性にとって理想の男性像ですね。長所総取りで短所は裏返し、設定が反則すぎるので、これはもう早死にでもしない限りバランス調整しきれないのだと思います。
ともあれ弥生の好みにつっこみたくなります。真相に至るまでもなく弥生の好みが「ぽやっとした世間ずれしていないタイプ」なのは初めから隠されていないし、何ら意外でもありませんが、まさかの人物がそれ系に該当し、彼女の心を射止めていたというのは、まったくもって想定外です。それでいてクールな知性もあり抜群の良バランスで、何というか、欲張りすぎ?はるかと同系で、それがそのまま肩肘張らないスタンダードなんでしょうけど。打てば響く状態で、年下ということも相まって導き甲斐があって弥生もかいぐりたくなるんでしょうね。そういえば冬弥がまごつくと妙に乗り気だし、やっぱりそんな感じなのかもしれません。はるかも大概、誘い受けを定石にしていますしね。下品なジョークをあえて言うなら、スポーツ万能の河島兄妹にも唯一苦手とする種目がある、ベッドの上では別だよってことです。多分無言の察してで寄りかかるなりして弥生の初手を促したのだと思います。誰かさんみたいに画面いっぱいに淫語ずらずら並べないです。誘った誘ってないの問答にしても、述語省略で「弥生さんが」とだけたった一言呟いて状況を平然と転嫁、弥生にものすごい形相で睨まれて肩をすくめていそうです。もう、そういうお約束だと思います。弥生編で、冬弥にはそんなつもりはないのに、わずかな挙動をその気と受け取って弥生が変に気を回してくるのは、元々兄が通常のコミュニケーションでも直接的に言わず小さな素振りで弥生を仕向け、目的を果たして満悦するといった形式が普通になっていたからです。はるかにもそういう所ありますよね?そういうゴロニャン方針です。憧れがどうこう言われていますが、実際は結構図々しく(けれども淡白に)いちゃついていたみたいです。問題はそれを冬弥にも持ち越してしまう弥生の融通のきかなさ。全部、そうやって条件反射を習慣づけた兄のせいです。戯れはごちそうさまとして、弥生が男に興味なさそうな態度で最高の新品物件を押さえていたあたり、何だかなあと思います。兄、いいように手懐けられてそうです。
スーパースターという従来の漠然とした要素に、弥生さんのペットのち守護霊という強烈な属性も加わって、実物が登場しないだけに、兄のキャラクター性は混沌としています。ペットと飼い主の立場は時と場合によって可逆、守護霊モードも弥生が従えているのか彼が煽っているのか定かでない状態です。生前も死後も、適宜攻守入れ替わりつつよろしくやっているようです。目に見えない隠し要素でベストカップルぶりを発揮されても、シナリオ評価には何一つ直結しないし、ほんと馬鹿みたいです。
あと兄の名前が判らないのは本当に不便です。おそらくは冬弥やはるかに対応した相応の名前があるのでしょうけど、何せ公表されていないので断定できません。はるかが春花なら、兄は夏樹とかその辺かもしれません。はるかが早春の暖かな陽だまりなら、兄は夏の涼やかな木陰、身を置く条件が違うだけで、体感温度、涼しげなぬくもりはほぼ同じです。ついでに言うと、常冬で芯から冷えるも慣れて平気な冬弥も同じく体感は一緒です。はるか強化版という立場やWAから欠けた季節の象徴などの想定される性質、またアナグラム面を考慮して適当な兄の名前を雑に割り出しましたが、完全に憶測ですのでふかし程度に。
通常の動作こそ、緩慢で不規則なゾンビ仕様から迅速で正確なロボット仕様へと反転している弥生ですが、発言様式の面で、基本は無口でありながら、いったん火が付くと一方的に延々喋り続けるという独特なパターンを原型から受け継いでいます。一方で、弥生は別に心自体は壊れておらず、それなりに人間らしい感情を持っていますが、その表現の面でエラーが生じているのか、つっけんどんで無機質な言い方しかできません。両方とも、伝達システムが故障してしまって起きていることだと思います。もっとも弥生にとってはそれが生まれ持った性格なのでしょうが。派生元を下地とすると、兄としては自分だけまっとうに気楽に生きてて、弥生だけデフォで壊れたままなものだから「なんか、すごくごめん」みたいな反省と償いの気持ちで接し、尽くしていたのかもしれません。それこそ「信仰」と呼べるくらいに。どのみちまた壊して本末転倒です。派生事情を知らず、純粋に弥生そのものに恋をしただけかもしれませんが、彼の、死んでもなお側に居続ける熱のあげようから察するに、原型もシスコンは常備として、彼女のことも結構特別に好きだったんじゃないかと想像します。妹問題があるから今さら自分だけ幸せになる訳にいかなくて突っぱねているだけで。後発作品における解釈は元の作品にフィードバックされないと思うので、あくまでWAに反映されているだろう設定解釈で原型の実情がどうだかは定かではなく、さらにはそれ自体が私個人の推定的解釈に過ぎないので何の確証もありませんが。
河島兄が弥生を大事にするほど、派生上の収支で、冬弥の美咲編での行いがすさむというしわ寄せがきます。どうせ弥生はそのままで強いんだから気遣い無用で、ひ弱な美咲のためにも後々のために適度に愛情を深めてくれれば良かったものを。極端すぎ、全か無かしかないんでしょうか。兄が悪いのではありませんが、WAにおける不幸なことの運びは大体兄のせいです。受け継いだ要素が各々異なり、受け持つ「仕切り直し」の着目点および路線も両組で異なるので、待遇に歴然の差が出るのはもう仕方ありません。兄は存分に入れあげて、冬弥は存分に困らせればいいと思います。登場すらしていない人物のもしもを語るのはナンセンスですけど、ふと、兄と美咲の組み合わせならどうなっていただろうと空想しますが、美咲は投げ売り状態の気安い冬弥だから親しくなれたのであって、兄は冬弥に愛想や人当たりという対人要素を根こそぎ持っていかれていて取っつきにくいだろうし、近づきたくても近寄れない美咲が案の定ストーカーというねちっこい手段を選んだなら、縛られたくない兄は逃げてますます近寄らないので、まず親しくならないと思います。しつこく追い回されるのは嫌だけど、余計なこと言わずに側にいてくれるならそれはそれで可愛い、むしろ壊れてるのがいいと感じるみたいなので(原型が)、やっぱり弥生でないとだめなのでしょう。冬弥が危うい感情面を継いでいる一方で、兄はずれた感性を継いでいると思われます。原型が元々おかしい人なので、分岐しても変な性質はそれぞれ持ち越され、逃れられない運命です。
美咲の項目で彼女の二番手思考について論じましたが、そもそも冬弥自体が当初二番手だったという可能性もなきにしもあらず。英二(の対外的な虚像)への憧れをぽ~っとして口にすることから、美咲にはどうも王子様願望があるようですが、冬弥ではその高望みをとても満たしきれません。元々は、安易な冬弥を足掛かりに外堀を埋めてあわよくば高嶺の兄と、と計算していたのかもしれません。スポーツ全般に疎そうな美咲が「テニスなら何やっているか判る」と限定するのも意味深です。素人が他競技を差し置いて真っ先に習得できるほどテニスは簡単なルールではありません。よほど興味を持って勉強しない限り。やはりひそかに追っかけていたのかもしれません。兄もまた同じ高校に通っていたなら、兄と冬弥は考証結果上、高校入れ違いになるので、美咲には正味1年間の先輩後追い期間があり、そこで冬弥の知らない恋の計略が進められていたのかもしれません(備考ですが、学校入れ違いの学年差により、兄とは通う学校が必然的に異なるので、はるかが学校帰りにだべっていた相手は兄ではない、つまり冬弥かとの推察が裏付けられます)。でも美咲は一向に兄に近づくきっかけを得られなかったので、弟分の冬弥に目をつけたのでしょう。意中の人相手でなければ緊張してパニックを起こすこともなく、着々と落ち着いて行動できます。だとすればそれを見透かした冬弥の中身が美咲に対しまったく心を開かないのも仕方ないことかもしれません。プライドの問題です。冬弥はああ見えて意地が悪いので、美咲の狙いを知りながら、わざと兄との接触を取り持たず、引き合わせなかったのだと思います。はるかがテニスをやめたことに対する美咲の認識への言及は反語的用法で、その理由を知らないはずはないという意味です。で、いまだに美咲のやり口を根に持って彼女を信用していません。美咲の恋心が冬弥に繰り下がった後も「どうせ俺、元々は使い走りでしょ」といじけて、彼女を斜めにしか見ようとしません。ひがみが深刻化して内なる相関はどん底です。
「はるかがテニスをやめていなかったら色々聞きたかった」と美咲は言います。はるかがテニスをやめた直接的な原因が兄の死であることは明白で、それはつまり兄の存在が、はるかがテニスをしている条件のための必須条件ということです。美咲は、はるかにテニスを教わろうと考えていたのに、彼女がテニスをやめた時点で、その申し出を表明することなく引っこめた。はるかが実際にテニスをやめており、美咲に教えられる状態にないこともその理由の一つではありますが、狙いである兄と繋がる展開などもはや発生しないのに、はるかにテニスを教わるなんて何の意味も持たないからです。美咲は別にはるかにテニス習いたかったんじゃなくて、はるかを通して兄と知り合って兄にテニス習いたかった、ていうかテニス自体は割とどうでもよくて、ただ兄とお近づきになりたかっただけです。別にテニス習いたい訳じゃないので今ではもう習おうとは思いません。元々の日頃の基本性質として情報集めに余念なく、当然、世間で知られた存在である河島先輩データは一通り謹製ファイルで自分なりに総まとめ済み、その彼が第一目的で、そのための周到な下準備で妹はるかとの接触にこぎつけた美咲が、はるかがテニスをやめた理由を知らないはずがないのです。美咲がテニスに興味を持てなくなり、特に話を聞こうと思うほどではなくなったことが何よりの証拠です。冬弥はそれに気付いているので、テキスト上は「美咲ははるかがテニスをやめた理由を知らない」と逆方向に受け止め、とぼけていますが、実はそれは「何を白々しいことを」という真っ向からの反感と非難の意味です。なお、はるかも美咲に兄を紹介してくれなかったようで、結局美咲は兄と関われないままに終わっています。はるかは特に意地悪をする訳ではないけれど、美咲の狙いに気付いていても美咲本人から直接そう頼まれない限り、自分から気を回して有効に働きかけるようなお節介はしません。相手の出方を待つばかりでは、進展するものも進展しやしないのです。
画家ミレーについて語るパネルがありますが、実際それ自体の画風や印象は教養知識レベルでの話でしかなく、本題は「そういう優しい絵だったら誰の絵でも好きになる」と美咲が言っている点です。そして冬弥は「色んなものを好きになれるのは美咲さんらしい」とも。冬弥の台詞、表面上は賛辞寄りの形を取っていますが、これ、ものすごい悪意が含まれています。つまりは男の好みについても「優しそうなら誰でもいいんだ、美咲さんってそういう所あるよね」ってことで、彼女の気の多さをはっきり指摘しているのだと思います。そして「照れる美咲を見て、彼女の感性を讃えるのは我慢することにした」と締めくくります。美咲を讃えるイコール、たちの悪い皮肉です。「悪意で褒め殺していじめるのは可哀想だからやめよう」あるいは「本人が気付いてないから、いじめても無駄だしやめよう」の意味です。冬弥って本当にゆがみきっています。冬弥は元来、何の煩いもなく幸せに育った人を妬みがちな側面があるので、基本は美咲に友好的ですが、時として彼女の世慣れない心をむごく踏みにじりたい悪意もあるようです。美咲が善良であればあるほど冬弥の中身は面白くなく、嗜虐心をそそられます。美咲の長所はことごとく仇となります。一見無秩序に見える冬弥の害意ですが、一貫した一応の規則性と動機づけはあるのです。冬弥は純粋な一方で、ある面では結構邪悪です。主人公らしからぬヒールじみた性格の持ち主です。
兄が亡くなって久しい現在でも、美咲の当初の狙いを引きずっているのか、はるかタイプの男と彰タイプの男でどちらが好みか訊いたり(しかもはるかタイプの方を先行する)、冬弥はそれとなく暗に打診し、ちくちく嫌味を言います。冬弥こっわ。兄目当てだった美咲が妥協して後に自分に心を寄せるに至った推移を、冬弥は全部知っています。美咲の原型も、あの人の中身がてんで子供のトラブルメーカーだと初めから知っていて好きになった訳ではなく、彼を心に決めたのは当然、掛け値なしのハイスペックに目が眩んでのことだろうし、したがって初期状態の美咲の視線が冬弥ではなく河島兄の方に向かうのは、流れとして順序通りです。でなきゃ逆におかしいです。河島兄というのはあの人のいい所だけを厳選抽出したような、さらに上を行くスペックで、そんなのがいるのにわざわざ搾りかすの冬弥に目を向ける理由がありません。そんな、セット売りでついてきたいらない方、でも勿体ないからそれも確保しとく、みたいな見方をされては冬弥は面白くありません。自分が相手持ちであるという理由はもちろん、兄への劣等感と傷つけられた自尊心から「俺、絶対好きにならないからね!」と美咲に対し意固地になっている所があります。ただし恋愛に無関係な気持ちの大部分においては、美咲を慕い、信用しているのは確かです。恋愛という一点でのみ受け入れがたいのです。そして他方では、美咲の新旧の恋愛対象と無節操を知った上で、普段、彰の恋の成就を心から応援し焚きつけています。美咲の中身がどうあれ彰の恋はつつがなく実ってほしく、話は別問題です。
さて美咲編では、そうしたどうしても好きになれない理由があって恋愛面で遠ざけてきた美咲に、特に好きでもないのに不安感から慰みに手を出し、事実とは逆に「好きだから」とひたすら言い訳して苦悩する姿が描かれます。美咲に甘やかされるまま思考を放棄して溺れたい気持ちと、「その手に乗るか」と警戒し、プライドを貫いて舌を出す気持ちとの両方があります。冬弥は極端にせめぎあっており、どちらをも選びきれずにいます。ラスト、美咲に失恋した彰にぶたれることで目を覚まし、ようやく本心から美咲を好きになる決心をして受け入れる、という結末を迎えます。美咲を好きになったのは本当に最後の最後、彰への義理と誠意あってこそです。美咲本人への扱いは情に乏しく冬弥最低ですが、元々肯定的な観点から描かれたシナリオでないことは明白だし、始まる前から偽善者同士の化かし合いの関係で一貫しており、美咲にも表に出せない裏が色々あるのでお互いさまです。「親友の好きな人を好きになる物語」とされている美咲編ですが、最小限に短縮すれば確かにそうなるものの、膨大に連なる前提を踏まえた上で、結果的にその概要に行き着いている訳で、ものすごーく複雑で屈折した心理で成り立っているシナリオと言えます。
理奈の楽曲にヴィヴァルディ「四季」みたいな曲がある、その「夏」とか「冬」っぽいのがいい、と美咲は言います。曲自体の詳細には特に意味はなく、その象徴する好感対象、「冬」は判るとして「夏」って何なのかです。同列、しかも先行。先にも証拠不十分にでっちあげましたが、兄の名前に「夏」がついていること、ますます可能性が高まってきます。冬弥も「早くも夏が恋しいよね」と季節外れの話を振ることがあり、やっぱり「夏」という語句には美咲に当てこする何かがあるのだと思います。美咲が高校時代から冬弥を想い続けているらしいということは、作中でも何となくほのめかされていますが、だからといって、けっして彼だけを一心不乱に見つめていた訳ではなく、的を絞りきれず目移りした状態で二兎を追っていたようです。文字通り追跡しています。そしてことわざの通り、結果は一兎をも得ずです。乗りたい鞍が沢山あって決めきれず、結局はどれに乗るにも至っていません。その名の通りのさわくらさん。美咲の正式な鞍替え時期は不明で、兄攻略は無理めで見通しが立たなすぎて早々に諦めたのか、兄の高校卒業をもって尾ける現場を失ってそれきりになったのか、以降も追い続けたけど兄周囲に弥生がちらつき始めてから彼女に気圧されて撤退したのか、それとも兄が不幸にも死んでしまったから自動的に狙いが冬弥に一本化されたのかよく判りませんが、言うなればそういうとこですよ。冬弥が気に食わないのは。美咲は意志が弱いながらもそれでいてしつこいので、貫ききれず諦めきれない状態でどっちつかずにずるずる引きずっていたと思われます。本当、そういうとこですよ。一連の流れを冬弥に知られなければまだしも、順を追ってモロバレですからね。不信感が募るのも当然です。
美咲としては、冬弥のしこりなど知るよしもなく、遠くの先輩より近くの藤井君ということで、懐っこく話してくれる冬弥にほだされて徐々に彼に関心が移り、今に至るという次第です。いや中身は全然懐っこくないんですが、見た目では根性曲がってるって全然判んないから。性能が劣化した上、害悪なカードばかり引き当てていて、冬弥の派生メリットがよく判りません。いい所なしです。美咲さんも何でよりによって罰ゲーム選んじゃうかな。特にひねた所のない先輩より、ある意味攻略難度はきついのですが、冬弥は見た目イージーで私でも何とかできそう感があるので、美咲も安易に恋路変更したのだと思います。それなのに冬弥ははるか以外見向きもしない、のちに由綺という新参者に冬弥をかっさらわれる、さらに本編ではあのザマ等、とことん裏目でハズレくじ、しかも全部大凶で美咲が可哀想になってきます。
美咲のずるくて多情かつ執拗な所もものともせず(気付かない)、そのままをまるごと好きでいてくれる、彰という最高の人物がすぐ側にいつもいるんですけど、輝きいっぱいの好条件は眩しすぎて直視しにくいので、かえってなかなか気付けないものですね。彰による無欠で非の打ち所のない、絶対的に幸福なゆるがない救済措置という受け皿ありきでの、筆舌に尽くしがたい八方塞がりのその他の多くの貧乏くじで、幸不幸の濃さは総合的に正確に中和されるようにできているみたいです。彰というたった一つの存在がそれだけ大きいということです。一心に信じきった彰の眼差しを、美咲が重たがり、けっして彼の想像通りの完璧な存在ではいられそうにない申し訳なさで気を病みさえしなければ、趣味や価値観も近く、善性で共通した最良の相手だと思います。少なくとも自虐と偽善性ばかり似通って傷つき合うしかない冬弥相手よりは。まず彰は美咲のあらに気付かないと思うし、気付いたとして彼はああいうおっとりした人で、それはそれとしてそれもありかなと気にせずゆったり受け止めると思うので、美咲もすり合わせきれない自己像にそんなに悩まなくてもいいと思います。だまされたままの幸せってのもあるので、美咲は罪悪感なんか持たず、胸を張って彰をだまし続けてほしいです。元より彰というのは、ただ単に純朴で温和なだけの巻きこまれ型の人物ではなく、あれで結構遠慮がなく物怖じしない一面もあって、気の向くままに毒を吐いたり不平を言ったり反撃したりすることもままあります。言いたいことはずけずけはっきり言いますし、不健康に我慢してためこむことはありません。美咲の本質を知ったとしても特にだまされたと嘆くことはなく、変わることなくあのままで、からっとしていると思います。そのままの美咲への的確な指摘が追加され、美咲としても、いい顔でない部分も認めてもらえるというのは喜ばしいことなのではないでしょうか。
河島兄と弥生の話に戻ります。派生元での変な能力使い放題ぶりを考えると、アスリートとしてめざましい活躍をしていた河島兄が、実は不思議な力で実力の上乗せをしたり自分のリミッターを外したり相手の調子を乱したりしていたんじゃないかという黒い疑念が生じますが、はるかが現時点でも素で優れた体力と知恵を持っていることから、全盛期だった兄は特にドーピング効果など必要なく、人を翻弄・誘導し、自分のペースに持ちこむスタイルは天性のものだったと思われます。特にランクにこだわるタイプでもなさそうですし、過分なことは望まないでしょう。せいぜい罪のないイメージトレーニングで脳波と体調をコントロールする程度です。結局やること一緒か。無口だから、あの人みたいに天の恩恵を有頂天でぺらぺら自慢講釈しないだけです。黙っていてこその奥義ですからね。毒にも薬にもならない適切な配分で使えば、何の害もなく、検査にも引っかかりません。栄養?それなら健康的で良いかと。仮に、本当に超能力を自在に使いこなせるとしても「それすると後で疲れるし、めんどくさい」とかであえて使いたがらないと思います。それでも、問題の事故にあたっては、さすがに「めんどくさい」で力を出し惜しみしたのではなく、一大事なので、ちゃんと使ったのかもしれません。ただ、用途が良くなかったと思います。兄は早さがカンストしていて、それをさらに上げようにも意味なかったのではないでしょうか。兄は素で神速なのでそのままで、その分、弥生の方を加速して、各々で危機を回避することだけに専念していたなら、両者助かっていたかもしれません。ただ、それは心情的にできなかった。派生元で彼女を壊した前例があるだけに、下手に干渉して、弥生の頭をいじることを状況打破の手段とするのだけは人道的観点からどうしても避けたかった。弥生を守ろうとして、結果彼女を壊してしまったら元も子もありません。正直、弥生は元々壊れているので別に追加で壊れても大差ないから、遠慮なくいじくっちゃえば良かったと思うんですけど。まあ、そこは兄の信条というか、譲れない一線だったのかもしれません。