理奈2


理奈編にまつわる別キャラの事情。冬弥が弥生と初めてちゃんとした会話をする時に「初めましてではありませんね」と言われたのは、TV局の現場などで何度も見かけたという意味ではなく、かつて河島兄妹のつてで知り合っていたからです。ひょっとしたら兄の彼女?に興味津々なはるかが冬弥を引き連れて二人を尾行していたのかもしれません。そしてバレて知り合ったと。弥生の話だと、兄との関係がいかにも行きずりのような印象を受けますが、実際には冬弥を伴ったはるかの茶々が入るくらいには仲が進展していたようで、意外と普通の恋愛をしていたのかもしれません。弥生は往生際悪く「お友達でした」と言い張るかもしれませんが、それを言うなら冬弥とはるかも一応の区分は友達なのに実際は恋人を上回っていますからね。友達以内、恋人以上です。弥生たちもそうだったかもしれません。その辺はっきりさせないまま、お互いがお互いしかいなくてお互いのすべてなので別にそれでもよく、仲良く普通にお茶していたでしょう。尾行するだけならはるか単独の方が格段に効率がいいのに、あえてうかつな冬弥を連れているのは、兄に対し限定で目立つためでしょう。つまりは「その人、紹介して」ってことです。対応する理奈の尾行イベント自体も、有名人の理奈本人が目立つ訳にはいかないため、冬弥を目印に英二と由綺に圧をかけているのだと思います。英二は尾行に気付いても撒くだけで何の対応もしてくれませんが、由綺が気付きさえすれば、彼女は必ず気になって「理奈ちゃん、冬弥君と何話してたの?」と訊いてくるので、その時点で堂々と「あなたこそ兄さんと何の話をしていたの?」と本題に踏みこめます。何事も対等たるべし。こちらに切るカードもないのに躍起になって兄の動向を問いただすなんてみっともない真似はできません。残念ながら、理奈の想定以上に由綺は冬弥に興味がないため、由綺は尾行に気付くことなく、理奈の目論見は実現しないままになります。その後、堂々めぐりで見通しの立たない無益な現状と、隠れてつけ回す卑小さへの忌憚から、理奈との尾行活動に冬弥はストップをかけますが、はるかとの過去においても冬弥は尾行の停止命令を言い渡したのかもしれません。いくら兄さんが好きでも、その恋路を邪魔してまで構ってもらうなんてことしちゃいけません。兄には兄の領域があります。それか、弥生と知り合えて満足したはるかは、以降単身で目当ての弥生と会うようになり、わざわざ尻込みする冬弥を連れ回さなくなったのかもしれません。弥生との仲について兄は別に隠す理由もないので、妹たちに普通に紹介したと思われます。特に訊かれなかったから知らせなかっただけで、相手が知りたがっていればちゃんと答えます。


一応冒頭で、冬弥は弥生について「確か知ってる」と語りますが、かつての弥生に関する記憶は冬弥の記憶損傷部位(普段の河島兄妹)に密接に付随するので、明確には思い出せません。作中で弥生は、感動、つまり冬弥の恋を含めた感情の高ぶりを「勘違い」、要するに「偽物」だと揶揄します。またある時は「作り物」とも言います。現に由綺への恋ははるかへの感情のダミーですが、弥生の口ぶりはまるで、その本物の存在を確信しているかのようです。改めて読み返すと弥生は随所で、はるかのこと、ひいては冬弥とはるかの真相を知っているとしか思えない言動をしています。諸々の情報を鑑みるに、やはり知己なのでしょう。「既視感と記憶の混乱と最大公約数的な妄想」なんて、冬弥の病状を把握していなければ絶対に言えない、そのものズバリな台詞です。弥生にとって冬弥は「『由綺の』恋人」ではなく、純然たる「『はるかの』ペア」なので、彼女は冬弥を由綺の恋人と認めず「自称恋人」と呼びます。他にも謎かけで冬弥を惑わす弥生ですが、そこまで必死に隠しだてしている訳ではなく、バレたらバレたで別に構わないようで、割ときわどい発言もしてきます。冬弥が記憶喪失だから高をくくっているのか、記憶が戻るならそれでいいと思っているのかは判りません。


冬弥が弥生の素性を知ることがあるとすれば、はるかEDではるかの記憶を全部取り戻した時点で自動的に弥生のことも思い出すと思います。兄側の記憶は取り戻す方法がないので情報としては不十分ですが、彼女の立ち位置を思い出すには十分でしょう。現状、由綺に入れあげている弥生を見て「あの人何やってんの?」ってなると思います。記憶を取り戻した時点で大体の事情は把握できるので、冬弥はここぞとばかりに弥生をやりこめようと代償行為を非難するかもしれません。「由綺ははるかじゃないんですよ」と。でも「あなたがそれを言いますか?」です。ぐうの音も出ません。それに、記憶回復に伴い、兄を経由した絶対的な力関係も完全復活するので逆らえません。兄に手懐けられていた冬弥にとって、その兄を手懐けていた弥生は完全に上位の存在です。「兄さんの『お姉さま』」に勝てるはずがありません。はるか・兄・弥生の力関係は、弥生がはるかに激甘っぽいことから三すくみが成立していそうですが、冬弥・兄・弥生はそのままピラミッド状になっていて、冬弥は最下層です。冬弥が弥生に一矢報いる条件を色々考えてみますけど、どうあがいても優位に立てる方法はなさそうです。故人に形無しで恋愛脳な部分と、投影における媒体無視なエゴについて、鏡返し覚悟で畳みかけて痛い所を集中攻撃すれば、何とか弥生を倒す見込みが出てきそうですが、おそらく彼女は平然と理論武装して己を正当化するので、やっぱり手に負えないと思います。


過去話を掘り下げた憶測。今まで恋愛感情とは無縁の超越した存在と思っていた兄が、特定の異性、しかも年上の変な人に執心で、無表情に浮ついているので、冬弥としては嫉妬とはいかないまでも、知らない兄を見るようで居心地の悪い気分だったと思います。大方その時に、立場の主張ということで、弥生に対しねちねちと値踏みする態度でも取ったんじゃないですか?はるかには偉そうに兄離れを促しておきながら、自分は普通にブラコン続行で、とやかく言えた義理ではありません。人のことだと見方が公正ですが、自分のこととなると意識からすっぽ抜けます。いつもの通り棚上げで、平然とダブルスタンダードです。またはるかは「兄さんが好きな人なら私も好き」と寛大ですけど、冬弥は狭量ですから兄を取られると思って「俺は簡単には認めない、まずは俺を通して」と、弥生の前にお目付け役として立ちはだかったのだと思います。兄はそんな見当違いの冬弥の審査を完全無視で弥生と仲良くしていたと思いますが。冬弥がうるさくして弥生に失礼を働くと思って、以降二人を会わせなかったのかもしれません。また表には出さねど多少の独占欲はあり、あえて冬弥を近づけなかったのかもしれません。そういう訳で、冬弥の中で、かつての弥生はあくまで兄の記憶の付属部に過ぎず、弥生個人の独立した情報としては確立していないので、その記憶は不確かです。そしてここでポイントとなるのは、冬弥は覚えていなくても、弥生の方はしっかり過去の所業を覚えているという点です。作中で、弥生が冬弥を厳しく品定めし、障害として何かと行く手を阻むのは、昔やられたいびりへの正当な報復といった所です。当然のような顔をして子供っぽい仕返しをする弥生も弥生ですが、大体は冬弥の身から出た錆です。あらゆる人物・物事に興味がなく、好悪の区別もなく、大概は黙殺するだけの弥生が対抗心をあらわにするのは珍しいことです。かつての冬弥が意味のない嫌がらせさえしていなければ、現在弥生はもっと友好的でいてくれたかもしれません。


芸能界にまったく興味のない弥生がマネージャーという職に就いているのはひとえに、緒方英二その人に興味があったからです。ひいては緒方兄妹というカテゴリーに。単に失ったものに似ていたのだと思います。動機不純、もうめちゃくちゃです。おそらく英二単体で世に出ていた時には、弥生はそこまで彼に関心がなかったでしょうけど、妹を引き連れて英二が再登場した時、これは!と思ったに違いありません。当時、生きる希望を失っていた弥生にとって、緒方兄妹は一筋の光だったのでしょう。無表情ゆえに冷静沈着に見える弥生ですが、その実、思いこんだら制御のきかない突進気質です。それまで持っていたであろう将来の展望を全部投げ捨てて、緒方プロダクションに走りました。そして幸いマネージャーとして採用され、今に至ります。英二が弥生の代償行為を知っているかどうかですが、彼は聡明なので、弥生が別の誰かを自分に映し見ていたとしたらすぐに気付くと思います。あらゆる方向にアンテナを張っている英二は、おそらく同時期に活躍していた才能ある青年に個人的に興味を持ち、媒体を通した形で彼に理奈と同年代の妹がいることを知っていたのだと思います。当たりをつけた英二がかまをかけ、誘導尋問した所、弥生はやむなく白状したのでしょう。隠しごとがバレるのって恥ずかしいですね。英二は大人なので、夢見る弥生を大目に見ているようです。英二さん、クレイジーなの大好きですからね。実際仕事はちゃんとしてくれますし、何の問題もありません。年下の男は軽くあしらう弥生ですが、英二に関しては彼の方が何枚もうわてなのでいいおもちゃにされています。立場が変われば愛の形も変わるのです。


作中で英二が語る弥生像は、冬弥の持つものとは随分かけ離れています。何も知らない冬弥にとってはミステリアスで恐怖の存在である弥生ですが、訳知りの英二にとっては、直情的でどうしようもない困ったちゃんなのです。英二に恋愛感情があるかどうかは定かではありませんが、個人的には、英二が由綺を好きというのは、理奈を煙に巻き、冬弥を牽制するはったりで、由綺を隔ててどうも弥生を見ているような気がしてなりません。由綺への愛を語るのに、弥生を引き合いに出す必要はどこにもありませんからね。でもそれじゃあまりにもベタですよね…。若き天才プロデューサーと敏腕美人マネージャーができてても、社長と美人秘書的というか「あっそう、やっぱり」としか思えない。英二さんのペテン師としての矜持にかけて、そこは予想外に由綺への愛を通してほしいと思います。弥生さんとだなんて気のせい気のせい。仮に弥生に対し気があるとしても、いまだに彼女の傷は深いままなので、今すぐどうこう進展するものではなさそうです。綺麗で無残な想い出に太刀打ちできるはずがありませんからね。そういう訳で、英二は弥生を見守ることに徹しているのでしょう。一歩引いた大人の立場の方が見込みありますしね。まあ恋愛に関係なく、単に弥生の反応を面白がって構っているだけかもしれませんが。


弥生が職に就いた当初、その時点では由綺はまだいないので、はるかの面影を映し見る対象は理奈でした。けれど、無愛想だけど寛容なはるかと違って、理奈は外向的だけど嫉妬深いので、弥生とうまくいきませんでした。面影を追った弥生が英二を見る目は、それこそ恋する眼差しですからね。兄さんに色目を使う女けしからん。本来なら超多忙な理奈に超有能な弥生が付くのが筋ですが、仲が良くない(理奈が一方的に敵視している)ので、マネージャーのなり手がいないのでしょう。


理奈編で、ライブの興奮で浮かれるであろう由綺を、彼女に何事も起こらないよう見張れと理奈は冬弥に指示します。それに対し「弥生さんに任せれば?(意訳)」と冬弥が言っても理奈が納得せず、「篠塚さんじゃだめなのよ」と否定するのは、その問題の片側を英二に限定して想定しているからです。理奈は英二を由綺に近づかせたくない、正しくは「由綺を」英二の周りにうろつかせたくないのです。もっと正しくは「他の女を」英二に絡ませたくないということです。理奈が防衛したいのは「英二」です。となれば、冬弥案では弥生を仲介することで英二と由綺との間隔は確保できても、英二を取りなす弥生の接触を許すはめになるので元も子もありません。それでは意味がないから「だめ」なのです。すべては英二に余計な虫がつかないようにとの画策です。


由綺を、はるかを映す偶像として育てている弥生ですが、そもそも由綺のアイドルとしての方向性を決めるのは、一介のマネージャーである弥生ではなくプロデューサーである英二なので、やはり事情を知っていると考えるのが妥当ではないでしょうか。弥生の投影を容認している英二ですが、理奈をだしに妄想にふけるのはよしてほしいらしく、新たに由綺という媒体を見つけ出してきて弥生にあてがっています。徹底してビジネスライクであるものの、英二は酔狂で活動しているような所があるのか、実利をそこまで重視していないのかもしれません。由綺や理奈のステージ衣装がどことなくテニスウェアっぽい?のは「私のはるかさん人形」を愛でる弥生に対するサービスなのか意地悪なのか。と同時に、かつて「はるかのやつ、普段地味な格好なのに、ひらひらしたミニスカなんかはいちゃって」とギャップ萌えしていた冬弥の姿が想像できます。仮に由綺や理奈が全身白い衣装を着ていて、妙に冬弥の食いつきが良いとしたら、それはテニスウェアの魔力です。冬弥は「いや、これは違う…」と見苦しく言い訳するでしょうけど、何も違わないです。いい加減にしてほしいです。


テニス選手時代、想像以上にはるかはその筋では注目株だったのかもしれません。はるかは高1のインターハイ?である程度の結果を残し、期待される高2の大会目前で挫折したのでしょう。WA本編の1年前にデビューした現在の由綺とほぼ同条件です。インターハイの日程が大体7月末から8月初めに始まることから、兄の命日が弥生の誕生日7/28であろう裏付けにもなります。本編が終了するのも2/28ですしね。自分の誕生日が大切な人の命日、その人と引き換えに得た命という点で、冬弥出生の疑惑とも重なり、似た者同士である冬弥と弥生の共通点も増えます。


英二は、媒体を通した形で河島兄妹を知っていたと思われ、また弥生が彼らと懇意にしていたことは知りえたとしても、彼らとの直接の面識はないと思われます。英二は、時代の波に消えた天才美少女テニスプレイヤー・河島はるかが、実際にはあんなやつだと知らないので、あくまでもかつてのはるかの外面をモデルに由綺の育成をしています。穏やかで打たれ強く、可憐でひたむきな優等生。誰が?って感じです。弥生ははるかの実像を知っていますが、それはまあ贔屓目ということで。媒体での情報と弥生からの伝聞を元に、英二なりにはるか像を構築して、由綺に割りふっています。さらには冬弥に河島兄妹と関わりがあるなんてことは英二もさすがに知りません。なので英二は、弥生の由綺に対する意気込みの重さを、何も知らない冬弥に、事情を明かさないままの状態でとくとくと説きます。英二は、弥生が由綺に同性愛的感情から執着しているとは思っておらず、弥生の真実、遠く離れた「妹」への罪滅ぼしの想いで代替の由綺に入れこんでいることを知っています。英二も相当なシスコンなので、共感し、弥生を理解してくれています。ただ、現時点で条件が変わり、弥生とはるかが再会してまた接触するようになったことまでは英二は知らず、弥生には由綺しかいないと思っているので、安易な気持ちで由綺と付き合っているようにしか見えない冬弥に対し、牽制してきます。


ことに英二の認識範囲は絶妙な塩梅となっています。英二は割とざっくばらんなので「青年、『河島はるか』って知ってるか?弥生さんの妹ちゃんなんだけどさあ」とごく普通に爆弾世間話をしては、作品の「管理人」である弥生にその都度強制終了させられているのかもしれません。弥生の仕事のおかげか、作中では一切そんな話は出てきません。話が出たとして冬弥は天然なので「同姓同名…」とかぼけ倒して、英二の言う人物とあいつとが同一人物とは思わないと思いますが。またルートによっては、英二がイブに冬弥と由綺をけしかけることがありますが、弥生は気が気じゃありません。英二は弥生が「『はるかさん』こと由綺さんを取られる」のを嫌って妨害していると思っているようですが、弥生はその進展がはるかと冬弥の心を壊す最悪の一手になりかねないことをおそれているのです。まさかそれを英二に説明する訳にもいかず、弥生はひたすらやきもきします。明かしたら明かしたで面白がった英二が何をしでかすか判りませんしね。そうでなくても英二は、ただでさえ自分を責めがちな冬弥をさらにその方向で追いこむようなだめ押しをする場合もあり、事情を知らないから仕方ないとはいえ本当いらんことをと思います。どっちみち余計なことしかしないので、英二の興味を引かないに限ります。英二は弥生自体に関してはほぼ掌握しきっていますが、はるかについては把握していないことが多く、また冬弥についてはほとんど何も知りません。英二は、弥生と比較した上で冬弥の想いの脆弱さを指摘してきますが、回り回って、実際には由綺をめぐる弥生と冬弥の実情は根は一緒です。英二が知ったらやっぱり面白がりそうですね、理奈に手を出さない限り。


そうそう、理奈EDではさすがの英二も取り乱しているのか、能力?を制御できず暴走していそうな様子が描かれます。冬弥は理奈の騒動一連について「全ての要素が声を大にして、全ての電波に『騒げ』と命令してた」と語りますが、それはホットトピックに対して自然発生したいわゆる大衆ムーブではなくもっと作為的に、英二がナニを使って世間に「騒げ」と強制操作モードで命令してんでしょ、あれって?この際限界まで徹底的にかき回してやるぞって、なんかもうやけくそ。でもそれはあくまで裏の超常面でのことで、リアルでは特に問題行動として表面化はしていないようで、理性的に自暴自棄を抑えこんでいるようです。それにしても、冬弥に対してよくボディブローひとつで済んだものだと感心します。あの人のだめな所、病んだ所、子供じみた所は全部冬弥に集中して受け継がれており、かたや英二は、自在に能力を発揮できる上、基本的にその精神性も成熟しているので醜態を晒すこともなく、万能で超然としたおいしいキャラです。まああの人の性質のどれが本質かなんて考えるのは無意味なことです。それぞれが別方向の本質を受け継いでいると言えるのではないでしょうか。WAがファンタジー要素のない現実的な物語というのは表向きの姿で、冬弥も派生時点の初期状態で能力を引き継いでいて本当は使えるんでしょうけど、自分の能力を高めるでもなく、他人の意識を操るでもなく、感度が高すぎて、それに応じてただひたすら心の壁という防御面に特化しているので目立たないだけだと思います。「俺傷ついた」だとか「ひどい…」だとかしょっちゅう打たれ弱いことを言っているのは、仮面である心の壁の方で、別に分厚い壁がいくら傷つけられた所で、本体である心の中身には到達しないので何も問題ありません。また壁により思考の流出も制限されるため、おかげで冬弥の本音をくみとるのは非常に難しい状態です。どうでもいいことは延々語るのに、肝心なことは心を閉ざして明かそうとしません。鉄壁の守りです。