由綺と美咲の性格は控えめという点で似ている的なことを冬弥が語ることから、由綺の身代わりとして美咲を選んだかのように受け取られがちですが、実際には由綺と美咲の本質はまったく異なる上、冬弥が欲している人物は由綺ではなく、はるかです。表面上、はるかの真設定は伏せられているため、美咲編は一応はそのまま美咲との恋愛話として描かれていますが、実際には愛のない肉体関係からこじれ、冬弥が身勝手に言い寄って美咲を困らせることに終始する物語なので、美咲さんファンにとってはストレス過多で不満の残るシナリオだと思います。たびたび揺り戻しで自省の色を見せますが、基本自分勝手です。ただ、冬弥は普段から美咲に対して下心や悪意がある訳ではなく、通常はよき後輩として節度を守り、また美咲をよき先輩として慕っています。良好な先輩後輩関係を見ていたい人は、下手にルートに進むことなく、パネル入手だけに留めておいた方が良いでしょう。
後半の、転機ともいえるイベントで、はるかが「私が気付いてること、美咲さんが気付かないと思う?」と彰の恋に関する認識を示しますが、彼女は作品中で最も鋭く、きわめて洞察力の高い人物として描かれており、はるかが彰の恋に気付いているからといって、美咲が同様に気付いている確証はどこにもありません。第一、彰っていつもぼーっとしてるかにこにこしてるかで、感情の動きが読めない性格をしていますしね。冬弥周りってそういうやつばっかで、幼なじみ三人とも、好意は素直に表現するものの、それが通常の好意なのか特別な好意なのか判別がつきません。個人的な推測ですが、美咲は彰の好意にまったく気付いていなかったと考えます。冬弥じゃあるまいし、美咲は、人の気持ちを知りながら平然と知らんふりができるような人ではありません。美咲が気付いていたとしたら、もっと意識してしまって、彰を避けたり動揺したりして、とても自然体ではいられないと思います。実際の美咲の認識の程度は明らかにされないので何とも言えませんが、はるかの発言によって、美咲が相関図のすべてを把握していたと印象づけられ、ひいては冬弥の中で美咲の重要性が高まることになります。冬弥に自覚を促し、責任を取らせる意味でも、はるかは意図的に印象操作をしてきます。はるかが美咲への恋愛移行を強制することで、由綺の立場は無いに等しい状態になりますが、物事をシンプルに考えるためにも、部外者の由綺はいっそ相関図から外した方が良いと思います。
終盤、冬弥と美咲がもはや元には戻れない状態になった時点で、彰が美咲に告白、そしてふられる展開になりますが、本当に間が悪いです。時期や順序が違ったからってどうなるという訳でもありませんが、彰の恋にはまったく望みがないのでしょうか。由綺の、恋人としての不当性により、冬弥をどうしても諦めきれない所があるので、現時点、美咲は冬弥しか眼中にありませんが、何だかんだで美咲は流されやすいので、ひとたび彰が恋愛候補として認識されたら話は変わってくるかもしれません。あれだけいつも側にいるのに意識されていないという時点で、彰の恋にはまったく見込みがなさそうにも思えますが、何せ美咲は冬弥しか見えていない状態で、彰はノーマークです。彰の好意が美咲の視野に入りさえすれば、可能性はあります。冬弥と違って、彰は手がかかったり美咲を困らせたりしないので物足りないかもしれませんが、冬弥にとっての二番手でも構わない美咲だけに、二番手に甘んじるという思考は、想うのにも想われるのにも適用され、自分にとっての二番手となりうる彰で妥協するといった選択も、可能性としてあります。まあ、近場の交友関係に縛られず、まったく別の範囲に視野を広げてみるのもいいかもしれません。美咲にも選ぶ自由がありますからね。
余談。彰EDにて、最後にはるかが登場して冬弥を介抱してくれますが、美咲編、ひいては本編全体で冬弥が求めているのがはるかその人ということもあり、そのまま冬弥の部屋にはるかが居続けることは非常に危険です。美咲編終盤で臨界点に近い冬弥は、強行的にはるかに手を出しかねません。信用度皆無です。そうなったらもう、彰EDでの地味な錯乱どころではなく、冬弥は過負荷の罪悪感に押し潰されてぶっ壊れてしまうでしょう。冬弥が変な能力?に目覚めても始末に負えないし、巻き添えで美咲もぶっ壊すでしょうし、どうしようもありません。なお美咲が頬を引っかいても、元から横髪がそんなビジュアルなので目立ちません。美咲の姓が単純に桜を表しただけのものではなく、ひねりを加えてわざわざ澤倉となっているのは、湿った下の倉/花の意味も持たされているからかもしれません。淫乱な意味を持たされて清楚な美咲さんが哀れな気もしますが、実際は暗喩通りなのでしょう。冬弥と美咲は原型からして肉欲に特化したただれた関係なので、原型をどうにかしない限りどうにもならず、またそれは原型の基本型でそこを変えると話が成立しないので、どうにかするのは不可能です。冬弥の美咲に対する扱いがひどいのは設定上変えられず、仕方がありません。是正された待遇を受け持っているのは条件違いの別キャラです。派生元で「壊れた彼女はお気に入り(概要)」と明言されているので、美咲もいっそ壊れちゃったら案外可愛がってもらえるかもしれません。冬弥がそうした特殊な好みを引き継いでいればの話ですが。それはそうと、おかしくなった冬弥が「美咲さんを使わせてあげようか?」みたいなこと言い出したら目も当てられません。彰も「何言ってんの冬弥もう信じらんない!」って半泣きです。冬弥は作品路線と自分のキャラにそぐわないこと言わない方がいいと思います。もっとも、何か悪さするといっても所詮冬弥なので、大それたいかがわしいことはしないとは思いますが、すべての決着をつけるという重荷を課せられる彰が可哀想です。長い冗談はさておき、身の危険があるので、はるかは自衛のためにさっさと帰ってしまいます。冷たく冬弥を見放しているようですが、冬弥のためにもやむを得ないのです。少し頭を冷やしましょう。
学園祭で、現代に甦った鬼の話を見事に描いたという美咲ですが、その真価は別にあり、実生活の舞台裏において、冬弥・はるか・美咲、ついでに彰を登場人物とした精神系物語を自分ヒロインに描ききったということに尽きると思います。美咲は人当たりが良くただ優しいだけの都合の良い女性ではなく、結構腹黒いというか、計算高く策略めいた所のある人物のようです。ただ本番に弱く、実行に際し呵責や保身で二の足を踏み、想定外の事態にあたふたしてしまうだけで。美咲は、活発だったらしい原型から反転して物静かな性格になっていますが、人望ある優等生という点で共通しています。さらには原型の元の状態は詳細が判らないものの、元の状態のそのまた元々は内気な性格だったかもしれないという複雑な事情があり、また思い描いたシナリオを実現できるという能力もあるようで、そこが美咲に脈々と受け継がれているみたいです。分岐である彰EDのその後では芳しくない展開が予測されますが、正規の美咲EDでは、美咲を身勝手で振り回し傷つけた冬弥が猛省し、美咲の献身にやがて情が芽生え、彼女との未来を選び、以降大切にしていくだろうという、派生元にもありえた救いある可能性が提示されているのかもしれません。紆余曲折ありますが、大筋は美咲の手の内、すべては冬弥の愛を手に入れるためのシナリオ通りです。ライターで着火しといて、最終的に消火器EDにならないことを祈ります(どっちも使い方間違ってる)。それにフェンスイベントの舞台が屋上だったらと思うとはらはらします。向こうにいますからね。派生元の当事者はあの人ではありませんが、美咲の原型の、策士としての基本的な行動パターンは一緒でしょうから、彼にも強引に圧をかけたのかもしれません。重い女に想われるのも大変です。あの人そもそも根は善良で悪人になりきれていない小物というか、グレ方を知らない優等生が無理して目いっぱい悪ぶっているようにしか見えないので、結構言いなりで、強く出られて、折れて要求をのんだとも考えられます。妹問題でそれどころじゃないのにのんきに交際してるってどう考えてもおかしいですからね。その上さらに彼女が家にまで押しかけてきて、絶賛拒絶中の妹にゴミを見るような目で見られて、もう何もかもがどうでもよくなってやけになったんだと思います。「早く言ってくれれば」というのも身勝手ですが、相当えぐくて意地悪な時系列配置になっていそうです。とにもかくにも、むやみに我慢しなきゃいいのに。彼女が、単にあの人の外面と体面に惹かれているだけなのか、それとも、彼が複雑な家庭環境で傷ついていることも、また中身がどうしようもなくだめな人だとも判っていてそれでも好きなのか、あの人たちもうまともじゃないし物語の本筋ではないので詳細は判りませんが、少なくとも美咲編における踏襲では、シスコンも病的なのも全部知ってもなお、それでも好き説をとっているようです。あるいは本編内での美咲の試練として「それでも好きでいられるか」が問われているのかもしれません。美咲のキャパシティを軽く飛び越え、まったく手に負えそうにない冬弥の進行性異常のその先におそれをなして、中盤、美咲は冬弥を避けることに徹しますが、一方では、摩耗していく冬弥の正常部分が助けを求めてもがいていることも察知できるので、おいそれと捨て置くことはできません。美咲が長年想いを寄せてきたのは、徐々に失われつつあるいつもの冬弥ですから、彼の心を守りたい気持ちもある訳です。冬弥は彰EDで突如発狂するのではなく、本人が自覚していないから独白にのぼらないだけで、兆候はそこかしこにあるのかもしれません。事情を知る美咲の目には悪化状況がまざまざと映っているのでしょう。それだけに、酔っぱらいイベントでの冬弥の茶目っ気ある様子は、美咲に「まだ大丈夫」「藤井君は正常のまま」と一縷の望みを持たせるのに十分で、唐突な流れに見えて、あれで意外と重要なエピソードなのかもしれません。美咲の受け持つシナリオはかなりの地雷案件で、正直ババを引いたも同然ですが、だからこそ愛が試される物語と言えるのではないでしょうか。これは純粋に派生先二人だけの継続テーマで、他の人は立ち入れません。由綺?由綺は一連の話にまったく関係ありません。生徒会役員のどっちか判らないどっちかがヒロインだと言われても、メガネちゃんが困惑するだけです。なお、プレ彰は「名前も知らない女生徒」とプレ美咲に無関心風なのに、彰が美咲への好意を隠そうともしないせいで、ひそかに憧れてたんじゃないかという疑惑に飛び火して気の毒です。それを知ったあの人が「感謝してくれよ」みたいな癇に障ることを言い出しそうで何が何だかです。まあ、それはあくまで別作品の受け持ちでWAの範疇ではないので、ここで深掘りするのはやめておきます。
妄想ついでに。彰EDその後(仮)で何もかもが明らかになった終了後、冬弥は彰にこってり絞られているんじゃないでしょうか。絶交とか言っていても、彰は優しいから話の裏側を知ったら同情してしまって切り捨てられなくなると思います。とはいえ美咲を巻きこんだことに関してはけっして許さず徹底追及の構えでしょうが。あと、早めに出てくれば冬弥の暴走を最小限で止められる立場なのに、経過を見ているだけでなかなか表舞台に立とうとしないはるかも説教ものです。「二人ともいい加減にしてよ、またなの!?」 普段は彰をおもちゃにして遊んでいる冬弥とはるかですが、実は彰が最強で、彼を怒らせたらただじゃ済みません。反転して過敏な神経質さはなくなり、おおらかで図太くなっているとはいえ、怒る時は怒ります。彰が持つのは鋭いシャーペンではなく柔らかな水彩筆なので、パステルでメルヘンな感じになるとは思いますが、多分変な丸をいっぱい描いてお仕置きしてくるんじゃないでしょうか。二人とも反省しましょう。彰も、今の今まで気付かなかったことを反省しましょう。ミステリマニアの彰がミステリを存分に楽しめるのは、解決のくだりを読むまで自力で謎を解くことができないからです。話の中で全貌が明らかになって初めて、彰はすべてを理解します。それは身の回りの現実においてもそうで、実際にことのあらましが白日のもとに晒されるまで全然そこにある問題に気付きません。彰主人公で美咲ヒロインの、要領を得ないダークミステリでも展開して自ら謎を追えばいいんじゃないでしょうか、冬弥は元通り悪役で。話にけりがついても何もかもが遅すぎますけど。
美咲編はどう見ても、全面的に冬弥一人が全部悪いのに、少なくとも彰は何も悪くないはずなのに、冬弥が「関係者みんなそれぞれ悪かった」みたいなこと言って延焼させているのは、こうした裏側の補足として挙げられているのだと思います。冬弥は真相を認識できませんが、物語上のけじめとして、テーマとオチは表に出しておかないと示しがつきませんからね。認識異常ゆえに、身を置く状況や自身の心境について、見当違いで事実と違うことばかり語る冬弥ですが、たまに真実にニアミスします。一見、場違いで的外れ、問題外に思える余剰描写の数々こそが、実は真相の鍵だったという構成です。本当に必要のない無意味な描写なら、わざわざ違和感承知で無理に挿入する必要はありませんからね。とりわけ、美咲編では部外者でただの脇役に過ぎないはずのはるかが、要所を完全に押さえてピンポイントで現れ、由綺よりも、見方によっては当の美咲よりもよほど印象深い働きを見せるのは、彼女が冬弥の意識を左右する最大のキーパーソンだからです。メインヒロインよりもシナリオヒロインよりも重要な、最上位の真メインヒロインだから要所に配置されているのです。冬弥にはるかを「何も知らない」「傍観者」と言わせているのは脚本上のあえての皮肉です。真の状況を判っていないので、美咲編の冬弥はもう、八割がた言っていることが意味をなしていないと思います。真剣であればあるほど、真相から遠ざかる方向に突っ走っていて、真面目に読むだけ損です。美咲編は、冬弥の間違った見解を修正してあらすじを立て直し、彼のめんどくさい苦悩自体は読み流すのがベストです。真相と冬弥の見解とのギャップを楽しみ、大いにつっこみを入れましょう。
美咲編の随所で冬弥の頭をよぎる、由綺の根強い存在感、あれは本当は由綺ではなく、はるかがほとんどだと思います。クリスマスに美咲と寝た後のうたた寝で冬弥が見る夢、由綺(本当ははるか?)が泣いていて、見当たらないけど悲しむ美咲の気配もあって、冬弥自身も泣いている、というのは完全に過去の弔問風景です。この出来事に関する無力感と、いまだまともな対応が果たされていない焦燥感が冬弥の心を強く支配しています。ただし記憶としては損壊しているので、曖昧で部分的な夢の破片としてしか浮上しません。このように、はるかへのフォローの必要性は事柄としては消失し無形化していますが、しかしながら無効化はされておらず、重大な心残りとして冬弥の胸にのしかかっています。また、冬弥が「俺は由綺も好きで、美咲さんも好きなんだ」とどっちつかずな迷言抜かすのは、さらに血迷ったことに、どちらも錯覚ゆえです。前者は自覚のない無意識の錯覚、後者は自ら画策する意図的な錯覚です。由綺も美咲も本当は好きではないから、大切に想っているのが真実ではないから、ある意味平気で傷つける行いができてしまうのも、何ら不思議ではないのです。結局まやかしはまやかしでしかありません。美咲との関係においては「惹かれ合う二人は、互いを、自分を、周りを傷つけても、自分の想いに溺れてしまう」といった苦い恋愛の本質を突きつめて描いた内容と思われがちですが実際は全然違うと思います。冬弥の語りによって強引にその手の話に持っていかれますが、そんな一般化できるような普遍的な物語ではないと思います。