補足19


これまで考察する中で、私なりの私見で冬弥を素人キャラ分析してきました。その傾向を今一度まとめてみます。まず彼はすごく我慢するタイプです。何か不服があっても大概のみこんでお愛想します。またすごく根に持つタイプです。ぱっと見けろっとしていても受けたことはずっと忘れておらず後々まで引きずります。そしてすごく暴走するタイプです。普段はいたって平坦ですが一定の条件が揃うと指定方向へと一気にがーっと行きます。これらの諸性質が、ストーカー美咲への対応にあてられた時、どうなると思います?まず美咲からストーカーを受けて迷惑に思っても我慢して友好的に接します。また何でもなく振る舞っても受けた迷惑はけっして許さず反発をどんどんためていきます。そして我慢ゲージが尽きた時、今までの迷惑全部を踏まえて一気にまとめて仕返ししまくる方向に暴走します。冬弥の特性全部が連動して、受け続けたストーカー分そっくりそのまま反撃ストーカー分として逆流させてしまうのです。俺は嫌だと言ってるのに(言ってない)しつこくつきまとったというんで、冬弥は腹に据えかねています。ためにためこんできたのは好意的な感情ではないから、美咲を追い立てる態度は自然と粗暴になります。純然たる攻撃です。冬弥は自分に我慢を強いてきた美咲を絶対に許しません。向こうが嫌がっても攻撃をゆるめません。なぜって、嫌がる自分をこうなるまでに追いこんだのは美咲の方だから。やられたつらみはきっちりやり返す、全量返しきるまで冬弥は止まりません。ストーカーを受け続けた我慢の果てが何でこんなことになるんだよ?と思いますが、それは「冬弥だから」としか言えません。上記に挙げた性質全部が冬弥が冬弥たる所以で、彼の行動を方向づける強力なファクターです。


美咲に対する冬弥の猛烈アタックの本質は「好意のアプローチ」ではなく「悪意の攻撃」です。アタック(求愛)ではなく純粋にアタック(攻撃)なんです。美咲の心を得るのが目的ではなく生粋の仕返し、つまりは嫌がらせで、本当は悪意しかありません。冬弥本性には美咲を許すつもりは毛頭ないので、彼女が困り果てても何ら気に病まず執拗に追いつめます。彼女を困らせたくないといった良心的な愛情なんて本性にはちっともありません。むしろ困らせる目的でやっていることで、悪意がすべてです。だからこそのあのひどい有様なんです。仮にも好意があるなら絶対ああはなりません。美咲が困るのは本性としては大いに望むところです。ただ、同時に発散対象として使うために美咲を落とす気にもなっているから、彼女をその気にさせるよう口説き、甘い言葉だって普通に吐きます。それが見た目には美咲が好きすぎて相手の心境お構いなしに好意を押しつけてくる態度に見えます。どのみち身勝手な動きでしかありません。美咲編冬弥の支離滅裂で強引なモーションは、上記のような複合的な理由が絡み合って発動したもので、その集約結果上、あの理解しがたい異様さとなって表面化しています。


美咲から受け続けたストーカーへの反撃と個人的な打算でターゲッティングを完了した冬弥は、逆に彼女をストーカーし返し始めることになります。ですが、美咲としてはある意味、自分が何をやってもそれまで冬弥が無反応だったからこそ安心して?何らかの反応を引き出せるまでと存分に粘着していた訳で、冬弥が実際、美咲攻略に強気で行動し始めるとなると話が違ってきます。美咲本人、追尾を日課とするうちにすっかり追尾そのものが目的になってしまって、冬弥側のリアクションは実質そこまで期待していなかったんじゃなかろうか。そうやって習慣でストーカーしている所にいざ冬弥が向こうから食いついてきても今さら対処できません。釣れない冬弥前提で釣りにいそしむのが美咲流であって、釣れた時にどうするかは何も想定していないからです。


美咲は状況の急転についていけません。戸惑う彼女は冬弥に引き気味な反応を見せ、彼を都度遠ざけます。求めなど思いもよらぬことで、自分としては何も想定して考えてはこなかったのだと。元来ことなかれな冬弥が日々の粘着により着実にメンタルを潰され、ついには限界がきて平衡を失ってしまうまで追いつめておいて、今さら「私、何もしてないもん」な態度を取られても「それは違うんじゃない?」って話です。完全に美咲に梯子を外された形になります。いやもう、冬弥壊れちゃったし。壊されたんだし。もう元には直せないし。壊れたなら壊れたなりに道を選ぶしかないし。冬弥としては、今まで散々追い回しておいて、いざ俺が受けて立ったら一転逃げ始めるって何なんだよ?って心境です。今までしつこく尾けてたのはそのつもりだったんじゃないの?何被害者ぶってるの?元はといえば俺の方が被害者なのに、何で俺が疎まれることになるの?理不尽な立場の逆転に納得がいきません。


冬弥直接の発言として、作中はっきりと言語化することはないけれど、何となくニュアンス的に彼は「俺は悪くない」「こうなるのは仕方なかった」「抗いようがなかった」といった意識を根本に持っているように感じ取れます。それは強力にプレイヤーの反感を刺激します。自分の行動にまるで反省のない見下げはてた態度だと。けれどもそうやって冬弥だけが悪者なのだと簡単に結論づけてしまえるのは彼の前提を何も知らないからです。


とかく冬弥一人のせい、悪いのはきっかり冬弥だけで他は誰も何も悪くないといった評論になりがちですが、それは冬弥と美咲の関係性に特段の前置きは存在しないと単純に見積もっていればそうなるというだけです。正確には、水面下で徹底された美咲の通常行動を踏まえて判断を下す必要があります。長いこと迷惑行為で「嫌な思い」をさせられてきて、その積み重ねに屈し、現況を「のまされた」背景が「冬弥の方に」あるということ、これが押さえるべき必須事項です。


「無関係」の美咲を冬弥が無理やり引きこんだのではありません。元々の干渉は「美咲発」です。冬弥はただ「応じた」に過ぎません。冬弥にとってはそれこそ「強いられた」事態です。彼はけっして言わないけど、言えるものなら「俺は悪くない」と言いたくもなるでしょう。美咲編の構造は、何のやましさもない清純な美咲に絶対的くずの冬弥が一身上のわがままで分別なく気持ちをぶつけて食いついてきている、などと単純に片側の素行一つに罪を落としこめるものではないのです。善悪を二元論で振り分けて、かたや完全な善、かたや完全な悪と断じるのはあまりにアンフェアです。前提として美咲から無視できようのない圧力があったこと、それ抜きに関係図は成り立ちません。


きっかけというきっかけもなかったのに、これといったことは特に何もなかったのに、美咲編冬弥は度しがたい神経で突然に振り切れた行動を起こします。冬弥一人で勝手に突っ走っているようで、彼がこらえ性もなく衝動で状況をかき回すのを不快に感じる人も多いかと思います。けれどもそれは無理解という典型的誤解です。冬弥突然の行動に「明確なきっかけがない」ということは逆に、それだけ「通常からして慢性的に張りつめた状態」であり「限界ラインで維持されていた」ということです。何もないのに冬弥が荒れ始めたのではなく、冬弥が普段から我慢していただけです。我慢の限界がきて、もう平常を維持していられなくなっただけです。というか既に我慢の限界を突破していた冬弥が、それでもなお我慢して、彼個人の精神力でもって偽りの平常を維持していただけです。冬弥の身勝手によって平穏が崩壊したのではなく、それまでが冬弥の我慢で成り立っていた平穏なんです。因果が逆なんです。


美咲による監視は、その日だけの特別な出来事として言及するまでもない、当たり前の日常として常態化しています。書かれていなくても常に「事象」はそこにあるものとして、あえて特記はされません。たとえるなら、美咲のストーカー圧は一コマずつ加算されていきます。一コマ自体は大した圧でもないので、初めのうちは特段の意識もなく見過ごされます。けれどもそれは継続的に蓄積されていきます。長期にわたることで圧は相応に高まります。そんな中での追加の一コマなんて、全体からするとごくわずかな推移です。冬弥も慣れてしまって特に刺激として体感できません。そのため、フルゲージ(限界)への最後の一コマというのは必ずしも劇的な出来事となるとは限りません。いつもの日常と何ら変わらない中で迎えると思います。さらに冬弥は我慢強いので、限界を超えた状態でもしばらくそのまま通常を維持します。彼の糸が予期せず切れた時、そこでようやく事態は表面化します。つまり時間差が出ます。何かをきっかけに直接起こる反応ではないので、冬弥急変前にある状況がきっかけとしての説得力に欠けていても何もおかしくありません。そういう訳で「特に何事も起きていないのに」冬弥はいきなり振り切れます。裏で強いられてきた冬弥が裏でいつ限界を迎えたかなんて読み手には特定しようがないのです。


裏で徹底した美咲の行動によって冬弥の耐久は確実に削られていきます。特記されなくても、美咲の追尾は日々の前提として常にあります。けれども、そのように文章化されない舞台裏でどれだけ追いつめられていたにせよ、実際に表立って美咲に向かって動いてしまったのは冬弥の方なので、その時点で冬弥の非です。獲物の立場から一転、反撃で逆にハンティングモードで美咲に詰め寄る側に回った以上、冬弥の方が加害者に入れ替わります。結果、全部冬弥が悪いという見方で話がまとまる土壌が出来上がってしまいます。表に出ている非は冬弥のものだけ、目に見えて判るのはそれしかないですから。第三者視点からしたら冬弥の悪行が美咲編のすべてです。


ストーカー美咲に屈するというのは確かに冬弥の「弱さ」という非によって引き起こされる結果だけれども、かといって彼を単純に「弱い人間」と定義するにはちと短絡すぎます。彼は絶対的に「弱い」のではなく、状態として「弱っている」だけです。本来なら安易に荒れた選択を取るような人間ではありません。それなのに美咲編でのあのザマに陥ってしまうのは、まず冬弥の強度を担保する要素が壊滅しているからです。現状、脳障害により調子が万全でなく、素地からして余力のない冬弥であれば、言動が不定期にがたつくくらいにおかしくなっても無理はありません。また、通常なら加重に晒されても適当な世間話で圧をそらして問題化をことごとく回避する「強い」冬弥でも、常識では収まらないほどの長期の積算がそこにあれば、いくら何でも心が参ってしまいます。それでもなお美咲にキレず耐え続けるのが正しい選択だなんて無理言うなです。そして、弱り目という不具合が現実化したその時、恋人というよすがに添え木効果を見いだせるかというと由綺は話になりません。彼女は冬弥の個人事情に目を向けることは一切ありません。当然、彼の状態が相当危険な領域にあることにも気付けるはずがありません。恋人の理解のない無援の身で過酷な状況に置かれるのですから、これもまた無理が無理すぎてこれ以上の無理は無理です。多重に連なった限界群に対し、支えになってくれるはずの存在が少しの支えにもならないのです。


冬弥には基礎条件時点で尋常じゃない負荷がかかっています。記憶障害だけでもう、想像を絶するひずみがそこにある訳ですよ。それが原因で正気を保てなくなったとして、そんなの本人にはどうやったって制御不可能で、彼は何も悪くありません。耗弱した人間を罪には問えません。冬弥の脳障害を把握している美咲は、だからこそ「悪いのは私の方」、つまりは「藤井君は悪くない」と擁護します。通常から変わり果てた冬弥を前に、それでも「藤井君はそのままでいい」「何も変わってない」とも言います。ええ、真実を知る彼女は真実に従って真実を言っています。でもプレイヤーの多くはその真実を知りません。そして冬弥自身も。何も知らない人にとっては、弱い美咲が冬弥に我慢するしかなくて無理してかばっているようにしか見えません。何でそういう風に言うの!?って思います。もっとこう、言い方ってないですか?悲痛な面持ちで言葉を絞り出すことで逆に冬弥を逆風に晒しています。美咲に他意はないんだろうけど、冬弥をより不利な立場に落とす結果にしかなりません。冬弥が本質的に美咲を断固好きになれないのは多分そういうとこです。


美咲編は、恋人がいる身で他の女性に惹かれる葛藤だとか、そんな色恋主体のありきたりな一般構造で起きている展開ではありません。冬弥が身を置く状況はそんな普通の位置関係ではありません。単なる恋の目移りの問題ではなく、ストーカー圧という被害に耐えられるかどうかの話です。恋人の有無とは全然関係のない次元で話は動いています。由綺は関係なく、美咲と一対一の問題です。進行に関わる要素は冬弥がストーカーに屈するか否か一つきりです。ただ、世間体として「初期状態で由綺という恋人がいる」というフレームは、名ばかりにもかかわらず絶対に冬弥から取り外すことはできない縛りで、本人も手持ちの前提に従って思考を構築するしかないので、名目上の筋では単純に浮気という不純物語に終始します。


美咲編のさなか、堕ちる状況の大部分に冬弥の非が問われますが、何も疑わず恋人している由綺には筋を通さねばならない義理はあるものの、美咲に対しては本来何も謝る筋合いはない訳です。何しろ美咲が展開するストーカー領域をそのままのんで、彼女の無言の意図をくんだだけですから。ただ、この「無言」というのが曲者で、加害判定がすごく難しい。美咲は知能犯なので絶対に自分からは先攻しません。冬弥囲いこみの陣が隙間なく張りめぐらされた極限でも、冬弥自身がそこで行動を起こさない限り何事も起きません。冬弥が動かない限りそこには「何もない」のです。「美咲からのストーカーなんてある訳ない、そんなのなかった」と判定されたら、普通にそういう事実になってしまいます。実際そんな事情など提起すらされないままになるでしょう。


けれども現実に被害を受けてきた冬弥としては当事者問題です。冬弥視点では美咲の圧により追いこまれた末の現状というのは明確な事実なので、本人その切迫を抱えた上で何かと責任逃れとも取れる言い分を展開します。口には出さねど「俺は悪くない」というのは被害者として当然の訴えです。また本来加害者である美咲が被害者側に回ることで「悪いのは俺の方か?」と逆らいたくもなります。美咲編冬弥の、己をわきまえない横行ぶりに「お前が全部悪いだけなのに何自覚なしに反省もなくのさばってるんだ」と叩かれがちですが、本当はそれだけにくくれない事情が色々あるのです。冬弥の弁明で本当に問題なのは、自己正当化する内心をにじませる一方で、自分の被害状況自体はまったく説明しないことです。前提が明かされないことにはそれを前提とした態度にも意味が通らないし、プレイヤーも冬弥を正しく評価できません。冬弥はさ、もっと自分に有利になる条件で自己説明した方がいいよ。自分で立場を固めないことには誰もその身に立って意図をくんではくれないんだから。言葉の含みが気になって真意を掘り起こそうと乗り気で作品に没入するのは私みたいな物好きだけです。


直球にストーカー被害状況を明かすことはないものの、美咲編冬弥は一貫して「美咲さんは俺のことが好き」を前提に動いています。実際たびたびそういうニュアンスの言及をしているはずです。それがシナリオの地盤となる根本意識で、冬弥の中ではそれが真理です。端的にいうと「俺のこと好きなんだろ?それなら問題ないよね?」と確信した名分で、正々堂々ずけずけ美咲に向かっていく訳です。そしてこのスタンスへのジャッジは非常に厳しいものになります。完全にストーカー典型の言い草ですからね。めった切り必至です。美咲に常習的にストーカー圧を強いられる下地がある一方で、それにより疲弊した冬弥もまた心を蝕まれて偏執回路に堕ち、すっかりストーカー系の思考パターン・動作パターンに切り替わってしまうので有罪確定です。そして美咲はけっして表立った動きはしてこないため「美咲の方の」ストーカー行為は事実として認定されるには至りません。明らかなのは冬弥側の逸脱行動だけです。本来の構図とは逆に「冬弥の方が」ストーカー論理で、何の気もなかった美咲に自分への好意を「勝手に見いだして」思い上がった結論に達したことになってしまいます。美咲の意図は「表面上では」依然不明瞭なままになっていますから、同意は未確認、それを自分本位に打ち立てる冬弥が悪いことになるのです。長年のストーカーに耐え、いい加減反撃に転じるほかなかった現状だとしても「ストーカーなのは冬弥の方」で決着してしまいます、納得いかないけど。ストーカーVSストーカーの同類同士のもめごとということで、俯瞰で読んでいる分にはどっちもどっち、お互いにじりあっていればいいと思うんですけど、結果として冬弥一人に非難がめぐってくる不遇集中には釈然としません。


冬弥としても、本来被害者の自分が悪者に置き換わる逆転現象には納得いかないらしく、言うに言えない抑圧下で、諸悪の全要因と見なされる立場の確定にはしぶとい抵抗を示します。言わないけど、どうにかして「俺は悪くない」と知らしめたそうな論調で自分語りを構築します。でも経緯を明かしても(プレイヤーの)誰からも信じてもらえそうにないし、その釈明を公言すると自分の立場がより下がると判っているから、思っていることを思うように言えません。下手に主張すると逆に不利になります。歯痒くやるせない思いで、要点曖昧にぐだぐだ独白します。実際美咲編冬弥が語る能書きって、何を言わんとしているか意図が読めないことが多いですよね?本人としては何かしらの原則があって自論を展開しているようだけど、彼は核心に直接触れようとはしません。裏事情は絶対に「言ってはならないこと」だからです。「言ったら負け」なんです。でも身の肯定のためにはすごく「言いたいこと」なのは確かで、言いたい膨満、言えない不満をにじませます。それが結果的に、ちゃんとした説明もしないまま筋の通らない自己弁護をわざわざ難解に言い濁して哀れぶって浸っているだけに見えます。この態度がまたプレイヤーの目には単にふてくされて良心を痛めもしない様子にしか映らないので、冬弥にはひどいバッシングが強いられることになり、本当にいたわしく思います。


美咲のストーカーが好意の一表現というのは疑いようがなく、私心抜きで客観視した上でもそこは否定の余地なしです。「美咲からの好意が『先』にあった」というのが、美咲に悪びれもせず無遠慮に強気でせまっていく悪質冬弥の、その裏にあるど正論ポリシーです。冬弥美咲の関係に限っては、冬弥が美咲に罪悪感を持たねばならないいわれはなく、彼女に謝る必要などまったくありません。彼女の広げた風呂敷の中で、演者として彼女の目論見通りに動いてみせただけです。美咲に強攻するのがさも当然といった態度で一貫しているのは何より、それが通るだけの立場保証があるからです。美咲企画で割り当てられた演目であり、演技プランには独善が入るけれども不適切でも何でもありません。


ただし、美咲単体への関与は彼女のストーカーに業を煮やしての対処行動であるという正当な理由があるものの、冬弥自身は単体の立場になく必然的に由綺というコブがついており、冬弥側を主体とした別の問題が生じます。本流の問題自体は冬弥美咲の一対一で発生していても、冬弥には由綺が連係しているので、美咲へのタイマンは自動的に由綺への裏切りと同義となり、問題は由綺への誠意にも波及します。ストーカー対応と恋人責任は本来それぞれ別問題ですが、ストーカーに「受けて立つ」時点で、その二つは競合的なポジション対比で関係づけられることになります。


ストーカー被害を受けているだけの段階では冬弥は単なる被害者で潔白な立場にいますが、ストーカーを「相手」として受け入れてしまったが最後そこで冬弥の負けなんですよ。ストーカー対処として「回避」していた今までならいざ知らず、冬弥はついに「応対」してしまいます。それは「聞き届け」を意味する冬弥の敗北です。また冬弥が動くことでのみ場が動くことから、急転した現状に関する責任はすべて冬弥にあります。さらに彼は恋人持ちだけによそに行ってはならない戒めがあり、それを判っていて破るのであればこれまた彼の責任問題です。とにかく美咲相手に動いたら負け、それどころかこっちが悪いことになります。だから絶対に美咲領域に踏みこむべきではない。ストーカーには関わらないのが一番です。


そして、ストーカー圧に負けて応じたというだけならまだそれでも哀れな被害者でいられますが、冬弥の私的な都合込みで美咲の好意を逆手に取って引きこむことになるので、そこで冬弥に非が加わります。単に強いられただけの不本意な結果ではなく冬弥側も利益を取っており、そこに打算がある時点で完全な被害者立場という免罪符を失います。冬弥が「自ら選んだ」展開ゆえに、行動責任から逃れることはできません。